イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、キリスト者としてブログを書いています。

ニヒリズムと他者の問題

Appendix:別の深刻な問題

「ニヒリズムの問題は深刻ではあるが、最も深刻であるとは限らない。」 前回すでに論じたように、おそらくニヒリズムの問題は、社会-経済的な条件が整った、物のあふれる「豊かな世界」において本格的に発生します。その意味では、この問題は「特権的に恵ま…

物があふれているからこそ……。

「ニヒリズムが蔓延しているということは、人間が他者と取り結ぶ関係が変化しつつあることの兆候でもあるのではないか。」 今日の人間は確かに、他者たちとともに生きてゆくことに倦み疲れています。けれども、このことは逆に、他者への渇望がかつてよりも深…

ニヒリズムは派生的である

「望むにせよ望まないにせよ、わたしには、あなたとの関係を求めるのをやめることができない。」 関係の具体的な状況はさまざまであるとはいえ、これが人間の生を根底から条件づける渇望であるように思われます。 わたしは確かに、あなたと呼べるような他者…

渇望、それでもなお

「本当の意味での他者たちとの関係は、関係の不可能性に直面するところからはじまるのではないか。」 お互いに、自分が見たい面だけを相手のうちに認めつづけていること。そして、他者がわたしとは違う仕方で考えているということに、私が耐えることができな…

他者のいない世界

人と人との関係については、生きるうえで次のことを改めて受け入れておいた方がよいのではないか。 「人に関わらないことも、人と関わりつづけることも、人間に苦しみをもたらさずにはおかない。」 人間と深く関わるということは、おそらくは誰にとっても、…

関係をめぐる残酷な事実

生きることの意味は本質的にいって他者との関係のうちにこそあるのではないかと思われますが、その一方で、次のような事情を忘れることはできません。 「わたしとあなたとの関係は、どこかで終わってしまうことがありうる。」 かつてはあれほど多くのことを…

別の開け

視点を変えて、別の角度からも事態を眺めてみることにします。 「わたしという主体は唯一的ではあるが、それにも関わらず、ただひとりで孤絶して生きてゆくのではない。」 おのれに固有の存在可能性を選びとることは、あくまでも唯一的であるこのわたしに委…

現実の唯一性

物質的な面においてはともかく、精神的な面からいえば現代がある種の「乏しい時代」であることは間違いなさそうに思われますが、そのことに不平ばかり並べているわけにはゆかないのは確かです。 「唯一的な主体であるわたしは、みずからに固有な存在可能性を…

この時代について思うこと

この時代とニヒリズムの問題について考えるために、まずは次の点を確認しておくことにします。 「認識と判断のすべては、唯一的な主体であるわたしに委ねられている。」 わたしの持つこの自由は、解放と同時に孤独をも意味しています。わたしは誰にも束縛さ…

哲学とは別種の「知恵」

ニヒリズムについては、次の二つの捉え方があるといえるのではないか。 1.ニヒリズムは、特定の人間が世界に対して取る態度である。 2.ニヒリズムは、人間の世界のあらゆる側面にひそかに浸透している。 すでに論じたように、筆者は、ニヒリズムという概念…

死とニヒリズム

重苦しい話題ではありますが、まずは次の点から考察をはじめてみることにします。 「死は、明示的ではない仕方でではあるが、人間の行うあらゆる営みに暗い影を投げかけつづけているのではないか。」 ふだんから死のことを語る人というのはそれほど多くあり…

最後の棘

イデア性と受肉性の関係についての考察からは、次のような実践的帰結が導かれるように思われます。 「生の根本問題は、死ぬまでに何をなすべきかということのうちにある。」 人間は、人生のうちでさまざまに夢想します。とくに、哲学徒ともなると、それこそ…