イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

最新シリーズ

「この人間」であることの受苦

論点: 現代の人間が向き合わされているのは、「この人間」であることの受苦という問題なのではないだろうか。 「現代の」という表現を付け加えたのは、反出生主義のこととか、その他色んな事情があるわけだけど、ここで論じたい問題はおそらく、この世を生…

絶対確実性と根源的事実性

1.意識の与え、あるいは、思考するわたしの与え。(絶対確実性) 2.個人の与え、あるいは、現実の中で生きる「この人間」の与え。(根源的事実性) この二つの与えについては、まずは次の点を確認しておくこととしたい。 論点: 絶対確実性の真理と根源的事…

コギトへの注釈と、「この人間」の与えについて

「コギト・エルゴ・スム」に関して言えば、哲学的には次のような二つの与えを区別できるように思われるのである。 1.意識の与え、あるいは、思考するわたしの与え。(絶対確実性) 2.個人の与え、あるいは、現実の中で生きる「この人間」の与え。(根源的事…

「唯一、絶対に確実な真理」

論点: 「存在のみ」の次元は、「この人間」の与えという出来事に結びついている。 この辺りのことに関する事情は、すでに一度『「わたし」とは何か』で論じたので、もしあれならそちらも参照していただけるとありがたいのだが、ここではそこでの議論を、新…

哲学は苦しみから

論点: 人間は生涯のどこかの時点で必ず、「存在のみ」の次元に向き合うことになるのではないだろうか。 議論が相当くどくなってきている気もするが、非常に重要なところなので入念に議論を重ねておきたい。しつこくてごめん。しかし、哲学するにあたっては…

力能の喪失と、その極限としての死について

問い: 人間は、何らかの意味で有能でなければ存在していてはいけないのか? 力能があるっていうことについては、人間の世界ではさまざまな可能性がありうる。例えば、頭がいいとか、スポーツできるとか、人付き合いがうまいとか。容姿がカッコいい/かわいい…

哲学と黙示、あるいはソクラテス的無能について

論点: 現代の人間は、「あらゆる力能から切り離された、存在のみの人間」という形象に直面しているのではないだろうか。 ここには、根源的な問いがある。すでに書いたように、僕はこの問いの背景として近代の、すなわち、理性の力能の時代の終わりという歴…

現代と反出生主義雰囲気の問題

結局、近代という時代が突き詰めたのは、次のようなアリストテレス的人間観だったのではなかろうか。 アリストテレス的人間観: 人間とは、理性的動物である。 理性を持っている、すなわち、ものを考える力がある。なんだかんだ言っても、これが人間をほかの…

理性の自己喪失

論点: 今日、哲学はおのれ自身の無能を苦しんでいるのではあるまいか。 たとえば、デカルトをはじめとする17世紀近世哲学の時代には、哲学って、もっとずっと有能な何かに見えていたはずである。ていうか、哲学者がXY座標平面とか微分法とかを発明したりも…

力能と無能のあいだ

しかし、存在の対話と力能の対話というこの論点は、おそらく一筋縄ではゆかないものである。 論点: 哲学は、本源的には存在の次元に関わるとはいえ、力能の次元に関わらないというわけでは決してない。 たとえば、デカルトには『精神指導の規則』というテク…

力能の対話と存在の対話

対話は重要だ。しかし、一口に対話と言っても、僕には大きく言って二つのタイプの対話があるように思われるのである。 論点: 対話の種類には、力能の対話と存在の対話の二つがある。 対話力がある種のスキルだっていうのは、これはもう間違いのないことだ。…

論争は避けるべし

論点: 哲学者同士の対話は、できることならば、文章上のものよりも顔と顔を合わせての方が望ましい。 この点、先人たちの歴史を見ていても、悲惨なケースは枚挙にいとまがないのである。 たとえば、ライプニッツ・アルノー書簡だ。当時の最高の知性が言葉を…

対話と対面

論点: 対話することは、哲学の生命そのものである。 真理っていうとなんか堅苦しい感じもするけど、要するに、毎日誰かとしゃべり続けるということなのではあるまいか。 われわれは、これってこうだよねとか、あれってああなんじゃねとか、日夜語り続けなが…

ソクラテスの道

論点: 哲学者が追い求めるべきものは、金銭でも名誉でもなく、真理である。 お金と承認については、すでに考えた。それで今やわれわれは、真理へと進まねばならぬ。 真理である。よく考えたら、他に何か目的を持たずに真理のみを求めるというのは、なかなか…

たった一人の誰かに向かって

問い: 「いいね」が見えるようになってしまった時代の哲学者はどのように語り、どのように生きるべきか? ブログを書き始めてからそろそろ四年半になろうとしているが、こういう話題を色々気にせずに書けるようになってきたことはよかったのかなって気がす…

承認について考える

問題提起: 哲学はまずもって、他人のためではなく、おのれのためにするものなのではあるまいか。 孔子先生の言う通りであるよ。結局、自分の修行のためなのよ。他の人に喜ばれるためではないんよ。 しかしそれでも、われわれは時々哲学をやってて空しいよう…

こうしていたくないわけでもない

問題提起: 哲学はまずもって、他人のためではなく、おのれのためにするものなのではあるまいか。 孔子先生の言う通りであるよ。結局、自分の修行のためなのよ。他の人に喜ばれるためではないんよ。 しかしそれでも、われわれは時々哲学をやってて空しいよう…

哲学は、面白いというだけでいいのか

論点: 前途有望な若者に哲学の道を勧めることが正当であると言うことができるためには、哲学には将来の不安定さを補って余りあるだけの、何らかの善さがあるのでなければならない。 繰り返しになるけど、いくら勉強してもお金は稼げない可能性が高いわけで…

ただ、一切は過ぎてゆく

論点: 哲学の道に進むとすれば、その若者はどこかの時点で必ず「果たして将来生活してゆけるのか」という問いに悩まされることになろう。 おそらく、最大にして究極の問題とはこれであろう。 ていうかさ、お金の問題さえなければ、哲学の道が最高なことは間…

真理とパレーシア

これから、哲学の道に進むべき(?)根拠について考えるにあたって、まずは次のことを確認しておきたいのである。 論点: 哲学において、率直に語ることは真理に至るための必須条件である。 たとえば、哲学に興味ない人に対して、哲学自体を正当化しなきゃな…

哲学のススメ?

うーむ、わからん。はたして、何を言ったらよいものか……。 「……どうしたんですか?」 ああ、うん。いやね、僕はこの間、A君という青年と少し話をしたのだ。 A君はちょっと暴走気味のところもあるが、前途有望で元気のいい高校二年生なのである。ただこの子、…

他者理解についての探求の終わりに

今回の探求の暫定的結論: 私たちは、他者を理解することを諦めるわけにはゆかない。 「知っている」と思い込むことは致命的に危険ですが、「知らなくてもいい」と放棄してしまうことも、決してよい結果をもたらしません。どれだけ果てしのないものであろう…

「幻想は、我々の進むべき道ではない」

船越さんに関する二言明: 「船越さんは、感じのよい女の子である。(甲言明)」 「船越さんは、感じのよい女の子として振る舞い続けることを自分でも止められない女の子である。(乙言明)」 事情や背景についてはとりあえず置いておくとしても、甲言明が偽…

甲か乙か、船越さんの実像

考える時間がほしいと言って去っていった船越さんからは、言うまでもなく、何の連絡もありませんでした。A君と彼女の関係については、他に特に何も起こらない限りはこの断絶をもって最終段階とするのが、予測としては妥当なのではないかと思われます。 論点…

対話を諦めてはならない

論点: 哲学徒は、対話というコミュニケーションの方式を諦めるわけにはゆかないのではあるまいか。 現実には、私たちの人生においては、対話の限界に突き当たることばかりかもしれません。対話することに対する、また、相手の言うことに耳を傾けることに対…

愛と民主主義、その危機について

論点: 片方が気づかないうちに対話を打ち切られているというケースは、多数存在する。 互いの価値観や考え方が大きく異なる際には、対話することは多大な労力を要します。 その上、この過程は双方にとって、心地よいとは決して言えないような性質のものです…

対話が密かに打ち切られるとき

論点の再提示: 対話の相手から耳を傾けてもらえない時、ひとは静かにその相手から離れてゆく。 相手に話を聞いてもらえないと感じた時、それでも対話を続けてゆこうと努め続けるのは、多大な労力を要します。 その上、仮に対話を続けようと欲したとしても、…

Qさんの、忘れがたい思い出

前回までに問題としてきた論点を、これまでとは別な角度から論じてみることにします。 論点: 対話の相手から耳を傾けてもらえない時、ひとは静かにその相手から離れてゆく。 A君の姉である大学生のQさんが同級生のR君から避けられるようになってしまったの…

誰にでもできそうで、誰にもできないこと

論点: 認識論的な意味で誠実になるならば、わたしは自分を取り巻く隣人たちについて、偏見を持っていないと断言するわけにはゆかないであろう。 わたしたちは原理的に言って、他者たちの考えていること、感じていることをそのままの形で知ることはできませ…

他者の未知性

「ごめん、少しだけ考える時間をもらってもいい?」 告白に対して船越さんから上のように答えられたことによって、A君は、期間無制限の「待ち」の状態に入ることになりました。 論点: 私たちの人生は、予測不可能な他者の反応に絶えず気を配りながら歩んで…