イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

ヘンリー・ミラーのアドバイス

  ヘンリー・ミラーという作家は、「いいか、なんでもやってやれ!ただし、面白いことにかぎるぞ!」と私たちにすすめています。僕は大学の四年のときに彼のものを読んで、この言葉から大きな感銘をうけました。なんというわかりやすさだろう!これからは、このモットーをかかげて生きてみることにしよう。目標を決めることによって、人生はその目標にむかって一心不乱に進んでゆくはずだ。めちゃくちゃに面白い人生、文句のつけようがないじゃないか。僕はこうして、彼のアドバイスを試しに受けいれてみることにしました。しかし、今にして思えば、どうもあれが失敗のはじまりだったのではないか・・・
 
 
  人生を生きていると、次のように呼びかけてくる声を聞くことが何度もあります。
 
 
「さて、君はいま、Aを行わなければならない。たしかに、Aを行うことが君の気が進むものではないことは、私にもよくわかっている。けれども、よく聞いてほしい。これは、どうしてもやっておかなければならないことなのだ。なんだって?なぜか、だって?なぜそれをやらなければならないのかと、君は私に聞くのか?おいおい、頼むから、そんなことは言わないでくれ。理由なんて聞くもんじゃない。いいか、みんな同じことをしているんだ。これは面白いとか面白くないとか、そういう問題ではないんだ。いいか、よく言っておくが、人生は面白いことばかりではないんだ。生きてゆけなくなるぞ。これは、君のためなんだ。文句を言わず、さあ、やるのだ。」
 
 
  しかり、まさしく正論です。あのアドバイスがなければ、僕もそのたびにこうした言葉を素直に受けいれていたことでしょう。ところが、ヘンリー・ミラーは、大人しくその声に聞きしたがおうとする僕の背中をつかまえて、自信満々な態度で次のように語りかけては、何度も僕を丸めこんだのです。
 
 
「騙されるな、青年!そんなことを言う奴は、ロクな人間じゃないぞ!おいおい、どうも君は素直すぎるなあ。俺の小説を本当に読んだのか?なんだって、すごく面白かったって?いいや、読んでないね。俺の小説を読んで感動した奴が、そんなに簡単にあいつらの言葉に従うわけがない。いいか、俺は君にはっきり言っておくが、あいつらは君のためを思ってるんじゃない。よく聞け、俺が、この俺こそが、君のことを本当に思っているんだ!俺は君に、俺みたいに自由に生きてほしいんだよ。なあ、わかるかい?俺の小説を読んだんだろ?お、わかるか?わかってくれるのか?うん、いい奴だ。君は本当にいい奴だ。
 
 
  いいか、君は見込みのある奴だから言っておくぞ。世の中にはな、面白いことと面白くないことの二種類しかない。つまらんことに出会ったら、即座に逃げろ!いいか、全速力でだ!やらなければならない、だと?人生は面白いことばかりではない、だと?馬鹿野郎!俺は君にはっきり言っておくぞ、真実はその逆だ!いいか、人生には面白いことしか存在しないんだよ!君はこの地球に生まれて、いずれ死んでゆく。つまらんことをやってる時間なんてな、そりゃもう一秒だってありゃせんのだよ!
 
 
  なに、ブログの記事の幅が尽きそう、だと?何言ってるんだ、明日もやればいいじゃないか!いつものブログとテイストが違って困る、だと?テイストなんて知ったことか!君のせいじゃない、俺がすべて責任をもつから心配するな!明日、俺がしゃべりたいだけしゃべったあと、君は君のブログを続けりゃいい。言いにくいんだが、君のはふだん、パンチが足りんからな。きっと、ものすんごい哲学になるぞ!いいか、明日は俺が君に、本当の人生とは何かをたっぷり教えてやる!」