イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

たまたまいい曲に出会う日

われわれは単純に、予見のできない新しさが現実に湧き出てくることを認めることにする。
 
 
 
  予測不可能なままに進んでいって、たえず新しいものを生みだしつづけるということこそが生の本質であると、アンリ・ベルグソンは考えました。人はとくに、書くときにはたえず突拍子もないアクシデントに突きあたるものではないでしょうか。予想外の登場人物が現れたかと思うと、いきなり話しはじめて、こちらの出番を奪われてしまうこともある。今日はどうか、そんなことが起こらないように願いたいと思います。
 
 
  思いもかけないところから起こる出来事。身近なところでいえば、このあいだ、原宿で知り合いと待ち合わせをしていたときに、その前に時間があまったので、渋谷のタワーレコードまで歩いていって試聴をしていたら、ついこのあいだの4月にデビューしたばかりのバンドのCDに行きあたりました。迷ったあげく、その2日後にはCDを買うことになりましたが、『Children』という曲は、この中でもとくにすばらしい。以下に載せるのはYOU TUBEのリンク先ですが、こちらはデモ・ヴァージョンです。CDの正式ヴァージョンのほうは、これよりもさらにいい仕上がりになっているので、もし関心がおありなら、ぜひCDショップに足を運んでみてください。
 
 
Awesome City Club ''Children''



  曲が始まってから40秒ころの、ボーカルが入ってくる感じ。「不確かなことなんかに とらわれたりしない」というフレーズからはじまる中間部分には、なんというか、とても心地よい浮遊感がただよっている。街そのものがもっている息づかいを、そのまま音楽にしたような曲です。こういう人たちが今この時にも音楽を作っていて、それをCDショップで聴けるというのは素敵なことだと思います。試聴コーナーには、「好きな人と聞いてね」という、バンドのメンバーからの手書きのメッセージが載っていました。
 
 
  タワーレコードという場所には、若い人たちが作りだす暖かい空気のようなものが流れている気がします。街のなかで愛のある場所を見つけるのはなかなか難しいし、とくに、愛がお金と結びつくところを見つけるのは、さらに困難なことです。けれども、愛とお金がきちんと結びつくということは、社会にとって大事なことだと思います。ヘーゲルにならって、心の内側に秘められていたものが街の外に出ていって商品となり、さらにはお金になるというプロセスをたどることによって、社会ははじめて健全なものになるのだと言うこともできるかもしれません。音楽とお金とをかんたんに結びつけたくはないけれど、本当に好きなことを仕事にしている人たちを見ることで、こちらの方も思いもかけず元気をもらいました。
 
 
  さて、時刻はまもなく正午です。今日はいったい、どんなことが起こるでしょうか。せっかく生きることの予測不可能性を話題にしたので、明日は、これから今日が終わるまでに起こった、思いもかけない出来事を取りあげてみたいと思います。冒頭のベルグソンの言葉が身にしみてわかるような一日を過ごしたいものですね。