イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、キリスト者としてブログを書いています。

9条についての考察のおわりに

 
 70年前の今日、私たちの国は、長くつづいていた戦争を終えました。この戦争は、満州事変が起こったときからの年数を数えて、15年戦争と呼ばれることもあります。けれども、そもそもこの戦争が起こった原因をさかのぼってみるならば、問題にしなければならない時間のスパンは、それよりもずっと長いのかもしれないということに気づかされます。
 
 
 いつからか、この国の人びとの心は、「日本は、戦争をしたら必ず勝つ国だ」という信念に取りつかれるようになっていました。日清戦争日露戦争第一次世界大戦。大和民族は、十年ごとに戦争をして勝利する運命のもとにある。戦いから逃げだすのは、臆病者のすることだ。あの満州事変が起こったさいにこの国の人びとが熱狂に湧きたったのは、それまでずっと、「戦えば勝てるのに、なぜ戦わないのか」という思いで苛立っていたからでした。大日本帝国時代には、国のしくみのあり方以前に、何よりもこの国の人びとの心が、戦争を望みつづけていました。もしそうであるならば、あとは機会をとらえて、しくみのほうがその望みに合わせるだけです。「心のあり方が世界のあり方を決める」というのは、少なくとも私たちの一人一人の意見が国のあり方に大きくかかわるようになってきた現代については真理であるということができるでしょう。
 
 
 絶対平和のアノマリーである9条について考えてきた私たちの探求も、最後のところにいたって、とてもシンプルな結論にたどりつきます。9条を守ってゆくべきかどうかという点については、人によって意見はさまざまに分かれるでしょう。けれども、本当に重要な分岐点はむしろ、「いざという時には戦争は仕方ない」と考えるのか、「いや、何があっても知恵をめぐらして戦争以外の道を探ろう」と考えるのかという選択肢のほうにあるように思います。
 
 
 「私たちの国は平和国家である」とこれからも言いつづけることができるためには、どうすればよいのでしょうか。まずはとにかく、なにごとも起こることのない日常の平和を愛することだと思います。その次には、その思いにしたがって、理性的に自分たちの未来について考えたり、誰かと話し合ってみたりすることではないでしょうか。書いてみると、なんだか、とても普通の結論になってしまったような気もします……。けれども、この世界のあり方を決めるのは、政治家たちや専門家たちだけではなく、何よりもまず、私たちの一人一人です。たとえ特別ではなくても大切なことを毎日少しずつ続けてゆくことが、平和を守ってゆくうえでは何よりも必要なのではないかと思います。
 
 
 
9条
 
 
 
 シリーズ全体がとても長くなってしまい、申し訳ありませんでした!何がなんだかわからないままに、気がつくと1ヶ月以上も憲法について考えてきたということになりますが、これでいったん、憲法についての考察は終わりということにしたいと思います。
 
 
 さまざまなところから寄せていただいた意見は、とても参考になりました。ニュースサイトでくり返し取りあげてくださったり、コメントをくださったりしたことは、感謝してもしきれません。この国のあり方や戦争と平和について、直接会ったことのない方とも共に考えることができたことは、本当に貴重な体験でした。もちろん、選挙に行くこともとても大切ですが、この1ヶ月のあいだにさまざまな意見をくださった方たちのおかげで、政治とは何かということが少しわかったような気がします。政治とは何よりも、自分の人生を他の人たちの人生と重ね合わせながら、よく考えて対話しつづけることであるということを、この1ヶ月から学ばせていただきました。
 
 
 すでに少しだけ書きましたが、「中国の膨張は無視できない」というマスメディアの語りについては、過度に強調されている部分があるように思います。読ませていただいているブログの記事のなかで、「中国人の方がたくさん来ている近所のスーパーに、中国語の案内をつけたほうがいいのではないか」という趣旨のことを書いていらっしゃる方がいました。身近なところにいる外国人の方と交流をもつことも、とても大切だと思います。
 
 
 それから、このあいだ友人と9条のことについて話しているときに、次のように言われました。「9条は言うまでもなく、日米安保と組になっています。9条そのものは美しいけれども、米軍基地のある沖縄の人たちに大きな負担がかかりつづけているということは、忘れてはいけないと思います。」彼は、いつもは物事を斜めから見て皮肉を言うことも多いのですが、誰か他の人が傷つけられたりしているときには、とても早く気づく人です。すべてについて論じることはできないとはいえ、基地問題について論じることができなかったのは、数多くある心残りの一つでもあります。これからまた、改めて考えてゆきたいと思います。
 
 
 一ヶ月のあいだ、本当にありがとうございました。国のあり方について論じるのはしばらくお休みにしたいと思いますが、またどこかで、再び政治について考えてみることもあるかと思います。終戦の日、よい一日をお過ごしください!
 
 
 
 
 
[戦前期の描写については、長尾龍一『日本憲法思想史』(講談社学術文庫、1996年)を参考にしました。]
 
 
 
(Photo from Tumblr)