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イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、キリスト者としてブログを書いています。

アメリカへの逆襲   ーZEEBRAさんと「Neva Enuff」の世界

 
 今日は、北野武監督つながりということで、映画『BROTHER』にインスパイアされて作られた、ZEEBRA featuring AKTION「Neva Enuff」という曲について論じてみたいと思います。
 
 
 日本のヤクザのアメリカでの活躍を描いた『BROTHER』(2001年公開)は、北野武監督の傑作です。こののちに紹介させていただくプロモーションビデオの方でも取りあげられていますが、この映画の中で最も有名なシーンは、次のようなものです。外国人マフィアたちがビートたけし演じる日本のヤクザの前で、英語で話している。会話のなかでは露骨な人種差別がなされており、「Fuckin' Jap」という言葉までが飛びかいます。しかし、ビートたけしはそののち、テーブルの下に隠していた銃を取りあげて、彼らを撃ちまくってしまいます!当時、「ファッキンジャップくらいわかるよ、バカ野郎」というたけしさんのセリフは、巷でとても流行しました。
 
 
 この曲は、日本を代表するラッパーの一人であるZEEBRAさんが、『BROTHER』から多大な霊感を受けつつ、AKTIONさん(後述)とタッグを組んで作りあげたもので、日本ヒップホップ史に残る名曲であるといえます。テーマはずばり「アメリカへの逆襲」ですが、この点についていえば、じつは当ブログも、半月ほど前の「核戦略と私たち」というシリーズの中で、あの大国にとても悩まされた経験があります。その節は、アーミテージ氏とナイ氏の二人組の迫力にたじたじでしたが、今日はひょっとすると、あの時の雪辱の一端を晴らすことができるかもしれません。日本人だって、やられてばかりではいられない!それではさっそく、曲のリリックの方を見てみることにしましょう。(なお、以下の内容はあくまでもフィクションであり、実際の国際情勢とはいっさい関係ありませんのでご了承ください。なお、ビデオと歌詞については、すべてを本気に取ってしまうとあまりにも恐すぎますが、歌舞伎や浄瑠璃の場合と似て、これらは一種の業界の作法のようなものなので、そういうものだと割り切ってしまうと楽しめるかと思います!でも、そのことがわかっていても、僕も少し恐いです……。)
 
 
 
Neva Enuff / ZEEBRA feat. AKTION
 
 
 
・ド派手にカマそうぜ 誰のシマだか知らねえが荒らそうぜ
 
 出だしから突然すさまじいリリックがやってきて、私たちの度肝をぬきます。「誰のシマだろうが、そんなことは一切関係ねえ。もらえるもんは全部頂いて、気に入らなかったらぶっ放すだけだ。そもそも、日本人をナメたのが間違いってもんだぜ。俺たちゃ、やるときゃやるんだぜ。」
 
 
・確かに負けたぜ戦争じゃ だけどDISらせねぇ今の現状は
 
 これもすごいですね。ZEEBRAさんは、過去の歴史をいったん受けいれたうえで、そこから事態をひっくり返しにかかっています。「確かにやられたよ、お前たちにはな。だがしかし、今のこのあり様を見てみろよ。どうやら尻尾まいて逃げだしたくなるほどビビらなきゃならねえのは、お前たちの方のようだぜ。これ以上ガタガタ文句は言わせねえ。俺らみたいなヤバい奴らとかかわっちまったのが、お前らの運の尽きだ。」あ、あまりにも危険すぎます……。
 
 
・だから俺とお前と 他の兄弟 ガッチリぶん取るぜ でかい商売
 
 けれども、ZEEBRAさんのこの曲がすばらしいのは、バイオレンスをテーマにしながらも、ZEEBRAさんが人間として絶対に必要だと確信していることを、力強く言葉にしているからです。「お前たちは、命を賭けられる仲間と組んで、どでかい商売をものにするんだ。この世は言うまでもなく厳しいが、とにかくその中で闘ってみろ。」この世の中では、往々にして耳ざわりのいい言葉だけが語られるという事情がありますが、ZEEBRAさんをはじめとするラッパーの方たちは、この世の現実をしっかりと受けとめたうえで、それでも必死で闘えという熱いメッセージを、私たちに伝えてくれます。
 
 
・満足かって? いいやまだまだ
 
 とはいえ、そのメッセージに説得力があるのは、他の部分できちんとブチかますところはブチかましているからに他なりません!この曲のサビが、またすごい。「たとえどれだけ多くを手に入れようと、満足なんかするわけねえ。たとえどれだけ状況がヤバかろうと、逃げたりなんかするわけねえ。その理由を教えてやろうか?引くに引けねえのが、男の性だからだ。」これこそまさに、never enoughの精神です。もはや伝説となったこのサビは、日本のヒップホップ史上に築きあげられた一大モニュメントであるといえます。
 
 
ZEEBRA
 
 
・俺らお前の英語わかんだぜ HAHA
 
 セカンド・ヴァースでは、なんと『BROTHER』に出演していた役者の真木蔵人さん本人が、AKTIONという名義でラップをしています。その中でも、おそらく最高のものであろうリリックがこれです。内容については、説明不要ですね。こういうリリックに触れていると、僕もなんだか勇気が湧いてくる気がします。半月前の記事じゃしこたまやられたが、今は形勢逆転だ。なんたって、こっちにはZEEBRAさんとAKTIONさんがついてるんだぜ。アーミテージだか核弾頭だかなんだか知らねえが、いつまでも日本を見くびってると痛い目に合わせるぞこの野郎。こっちが9条持ってるからってナメんなよ!すみません、だいぶ調子に乗りすぎました……。
 
 
・今さら ビビってたってだらしねえ どうせ振り向いたって何もありゃしねえ
 
 他にも、「人種差別にカンカンだ」など、AKTIONさんのリリックについては語りだすときりがないのですが、ここは涙を飲んでラストのZEEBRAさんのパートに進みたいと思います。このリリックについても、説明は不要かと思います。後ろに何も残さずにただひたすらに進んでゆく、男の姿です……。ここの箇所については、プロモーションビデオのZEEBRAさんの仕草があまりにも神がかっているので、ぜひ動画とともにお楽しみください(2分58秒付近)。ZEEBRAさんはこのビデオの中で、ポップコーンをばらまいたり首をかき切る動作をしてみせたり、かぎりなく自由なパフォーマンスを見せてくれています。個人的には2分1秒あたりのAKTIONさんのポーズも、とても好きです。さて、名残惜しいですが、そろそろ最後のリリックに移ることにしましょう。
 
 
・つまらねぇ そんな人生 生きてぇか ダイナミックにビッグに死にてぇか
 
 こ、こ、これだ!「ダイナミックにビッグに」の韻がはまりまくっていることにも注目ですが、何よりも偉大なのは、メッセージそのものです。こんなリリックを書ける人は、おそらくZEEBRAさんの他にはいないのではないでしょうか。もちろん、ZEEBRAさんはここで、じっさいに命を捨てろと言っているわけではないでしょう。むしろ、「ダイナミックにビッグに死ぬくらいの気概でお前も自分の人生を生きてみろ」、ということなのだと思います。
 
 
 
 僕は今年で30歳になりますが、思い返してみると、僕の世代にたいしてこういう熱いメッセージを残してくれたのは、何よりもまずラッパーの方たちだったような気がします。ロックやゲーム、マンガなど、他にもさまざまな領域にさまざまな人たちがいるというのも事実ですが、いずれにせよ、僕はその点で自分を育ててくれた文化の一つであるヒップホップ・カルチャーに、今はとても感謝しています。おそらく、同じように感じている同年代の方はけっして少なくないのではないでしょうか。あとは、こういう熱いものを聴いて育ったのだから、自分もいずれは後続の世代にたいして、ZEEBRAさんほど豪快にではないにせよ、何らかのかたちで熱いメッセージを送れるような人間になれるよう目指すべきなのかもしれません。できる限り頑張ってみたいと思います。
 
 
 最後に、もしも実際にアメリカ人に襲われるとなったら、一体どうすればいいのでしょうか……熱く生きようと言った舌の根も乾かないうちで、申し訳ありません。これがZEEBRAさんならば恐れずに立ち向かうこともあるかと思いますが、僕はまず間違いなく、全速力で真っ先に逃げます。三十六計、逃げるにしかずです!
 
 
 
 
 
[くり返させていただきますが、ラッパーの方たちへの尊敬の念を別にすると、ここで書いたことは現実の国際情勢とは関係ありません。僕個人としてはもちろん、アメリカ人の方と仲良くすることはとても大事だと考えています。世界平和は、何よりも大切です!]
 
 
 
(Photo from Amazon)