イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

『Yeah!めっちゃホリディ』!   ー連休の真ん中でちょっと一息

 
 言論の未来についていちおうのところを論じ終わり、気がつくと連休の真ん中です。今回の安保法案の件については、多くのことを考えさせられました。少し時間を置いたのちに、いずれまた別のシリーズで考えてみたいと思います。
 
 
 さて、ここ数日は夏の暑さが最後に少しだけ盛り返したかのような陽気がつづいていますが、今日の記事では懐かしい曲で休日気分を満喫しつつ、夏の最後のハイテンションを楽しむことにしたいと思います。夏といえば、何はともあれ松浦亜弥さんのこのナンバー、『Yeah!めっちゃホリディ』です!
 
 
 もともとの予定では、今日は20世紀哲学の隠れた名著、ヨゼフ・ピーパーの『余暇と祝祭』について論じながら、休日の意味について考えてみるつもりでした。しかし、この本のなかで行われている哲学的な議論はかなりハードコアなものなので、それについて長々と書いてしまっては、それこそ休日の精神にまっこうから反するのではないかと言わざるをえません……。こちらの方は、またいずれということにしたいと思います。
 
 
 しかし、どちらも休日をテーマにしているとはいえ、『余暇と祝祭』といういささかいかめしいタイトルに比べたときには、『Yeah!めっちゃホリディ』というタイトルがかもし出すウキウキ感は、ひときわ目立ってきます。冒頭の「Yeah!」にもなかなか勢いがありますが、まずもって、「めっちゃホリディ」という言葉を生み出したつんく♂さんの言葉のセンスには脱帽せざるをえません。
 
 
 よく考えてみると、何が「めっちゃ」なのかはよくわからないけれど、とにかく、そういうテンションなんだ!だって、休日なんだもの。つんく♂さんのポップスの才能は、とにかく正体不明といえるほどのテンションで押しまくり、リスナーをノらせてしまうところにあると思います。秋元康さんのプロデュースするAKB48の楽曲のうちにも、たしかにテンションの高いものがたくさんありますが、そうした曲からは、何らかのコンセプトや理由にもとづいて、必然的に高いテンションが設定されたという印象を受けます。
 
 
 一方、つんく♂さんの場合には、たしかに毎回の曲にしっかりとしたコンセプトが据えられてはいるのですが、そのコンセプトを吹きとばすほどの勢いを備えた、理由のないハイテンションの勢いに乗って曲ができているように感じます。AメロもBメロもすっ飛ばして、いきなりサビからズバッと入ってゆくこの曲は、そんなつんく♂さんの美学のエッセンスがつまった名曲であるといえそうです。
 
 
 
 
 
 
 『めっちゃホリディ』をリリースしていた頃のつんく♂さんのアイドル音楽の核心は、ダサさにもとづいたグルーヴ感と呼ぶべきものにあったように思います。シャ乱Qで活躍していたころのつんく♂さんの音楽がとてもクールだったことを考えると、このダサさは、おそらく計算しつくされたもののようです。けっして事故でそうなったというのではなく、あえてダサダサな歌詞や音をこれでもかというくらいに連発してゆくことで、ある種の開きなおりの心地よさを作ってゆくのは、ほとんどつんく♂さんの独壇場だといえるのではないでしょうか。
 
 
 この曲も、確信犯的なダサい要素の連続によってできあがっています。その具体例を、ここで少しだけ挙げてみることにしましょう。サビの歌詞に合わせて入ってくる、「ホリディ」「サマータイム」と合いの手を打つ、低い男性の声。中華風のAメロの前に入っている、高音域の謎の声。「Yeah!」「スラーッシュ!」とそこかしこで叫んでいる、大勢の人びとのかけ声などなど……。ちなみに、この曲を編曲したのはつんく♂さん本人ではなく、高橋諭一さんという方ですが、こうした要素のうちにつんく♂さんのセンスが大きく反映されていることは確かだと思います。
 
 
 短い曲の中にこれだけのディテールが詰めこまれているのには驚かずにはいられませんが、つんく♂さんの熟達したセンスは、ダサい歌詞や音からなる素材を自由自在に組み合わせることによって、誰でもノリノリになれる曲に仕上げてしまうところに発揮されています。音楽好きの人以外にはなかなか理解されにくい曲というものは確かにありますが、国民的な人気を勝ちとろうと思ったら、高尚な境地にとどまっているわけにはゆきません!つんく♂さんくらいの攻めぶりとなると、なかなか真似できるものではありませんが……。
 
 
 「時代をちょびっと先取るぞ  ファッション雑誌を開くのじゃ」「すんげぇ  すんげぇ  すんげぇ  すんげぇ  水着  すんげぇ  すんげぇ  すんげぇ  すんげぇ  オシャレ」。こうした箇所を聴いていても、全くもってオシャレな雰囲気は漂ってきませんが、そのことがかえってリスナーをとても安心させてくれます。インターネットのドメインを連想させる「i@ yume  . .  /」もまた、それを歌うときの松浦亜弥さんのジェスチャーも含めて、ダサさを織りこんだ、ある完成された美学の存在を指ししめしているようです。彼女のボーカルと踊りも、つんく♂さんの感性と、とても深いところで共鳴しているといえるのではないでしょうか。
 
 
 そろそろ、まとめに入ることにしましょう。この曲のメッセージは、次のようなものであるように思われます。休日には、みんなが浮き足だって街に出かけてゆくし、オシャレの一つでもしてみないと、なんだか不安になることもある。でも、そんなのは本当は、どうでもいいことだ。休みの日は、歌って踊りださずにはいられないほどに、すべての人をウキウキさせてくれるものだから!
 
 
 この曲は、オシャレに気合を入れて夏の恋のバトルに繰りだしてゆく女の子のことを歌ったものですが、そうしたものに全く関係のない人であっても聴いて楽しくなれるところが、本当にすばらしい。つんく♂さんは、ポップ・ソングがどうやったら聴く人を幸せにできるかという問いを、とても真摯に考えつづけている人だと思います。
 
 
 休日なのに家に閉じこもっているせいか、どこかしんみりしたまとめになってしまいました。その一方で、この曲が「すんげぇ熱いバトル」をテーマにした曲であることもまた、忘れることはできません。ノリノリでウキウキな休日をお過ごしください!
 
 
 
松浦亜弥 Yeah!めっちゃホリディ
 
 
 
(Photo from Tumblr)