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イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、キリスト者としてブログを書いています。

読者の方からのリクエストにこたえて   ー赦しの問題へのイントロダクション

 
 先日、ツイッター上で知り合ったSさんという方から、「赦しをテーマにして記事を書いてほしい」というメッセージをいただきました。その後、何回かのメールのやりとりを通じて、詳細について伺いました。Sさんの問題を問いのかたちにして言い表すならば、次のようになります。
 
 
 「他の人にたいして赦されえないほどに重い罪を犯したとして、その罪が赦されるとはどのようなことだろうか?罪が赦されるということは、そもそもありうるのか?」
 
 
 ご本人の許可を得て、Sさんがそのような疑問を持つにいたった経緯について、ここに簡潔に述べておくことにします。Sさんは、かつて学生だった時代に、家庭をもつ女性と不倫の関係をもったことがありました。のちにその女性との関係は破綻したそうなのですが、その時のことは、彼女の次に知り合った別の女性との関係をめぐって問題を生むことになりました。
 
 
 Sさんとその女性は、Sさんのかつての不倫の事実などをめぐって衝突が生じ、お互いのことを認めあい、赦しあうことのできないままに別れてしまいました。このとき、Sさんの中ではじめて罪と赦しの問題がはっきりと意識されるようになり、それが今に至るまでつづいているそうです。Sさんはいま、罪と赦しの問題についてさまざまな哲学の本や論文を読みつづけていますが、こうした経緯のもとで、僕に記事を書いてほしいというリクエストをくださったとのことでした。
 
 
 罪が赦されるとは、どのようなことだろうか。僕にきちんと答えることができるかどうかはとても心もとないですが、せっかくリクエストしてくださったので、力の及ぶかぎりで論じさせていただくことにしたいと思います。いつもの記事よりも少し深刻なテーマにはなりますが、これから数回の記事で、この問題について考えてみることにします。
 
 
 赦しの問題については、昔からさまざまな哲学者たちが考えつづけてきました。けれども、今回のシリーズでは、そうした過去の哲学者たちの議論を直接に参照することはせずに、世界で最も多くの人に読まれている本である、聖書の言葉を手がかりにしながら探求を進めることにしたいと思います。
 
 
 
キリスト教 赦し 聖書
(ウジェーヌ・ビュルナン「キリストの墓に急ぐ使徒ペトロとヨハネ」)
 
 
 
 ルネサンスの時代を生きたエラスムスという哲学者は、次のような意味のことを言っています。世の中には星の数ほどの哲学の本があるけれども、この聖書という本くらいに豊かな教えを与えてくれる本は他にないといえる。この書物のうちでは、誰にでもわかる言葉で、きわめて深い真理が語られているからだ。私たちが生きている時代は、エラスムスの時代からはすでに何百年もたっていますが、この言葉は今でもまだ色あせていないのではないかと思います。少なくとも、罪と赦しにかんする問題について、聖書よりも重要な本がこれから先に書かれるということは、おそらくないでしょう。
 
 
 かつて、この国では、キリスト教の教義を信じるかどうかにはかかわらず、一度は聖書の世界に触れてみるという人が少なくありませんでしたが、近年では状況が変わってきています。いまや、知識人の世界においても、この書物が正面から取りあげられる機会はかなり少なくなっているといえそうです。けれども、聖書は、人間の心と生き方について真剣に考えてみたい人にとって、他のあらゆる人類の古典と同じように、とても多くのことを教えてくれる本です。書いてあることをすべてそのまま信じるかどうかは別にするにしても、ページをめくってみて損になるということはけっしてないはずだと思います。
 
 
 今回のシリーズでは、Sさんの質問に答えながら、同時にキリスト教思想の世界への入門も果たしてみたいと考えています。罪と赦し、そして、神。いずれも、ふだんの生活ではあまり縁のない言葉ではありますが、これから数回の記事で考えてみることにします。
 
 
 最後に、一点だけ付けくわえさせてください。このブログは、決してカルト宗教ブログではありません!とつぜん怪しげな布教をはじめるということは、もちろんありません。ももたろうくん(+ウィル)のかわいさについては、これからもぜひ宣べ伝えてゆきたいという熱に燃えていますが……。それでは、よろしくお願いいたします。
 
 
(つづく)
 
 
 
 
 
 
 
 
キリスト教の信者の方たちは、ほとんどの場合にはとても良識的なので、「カルト宗教」という表現はもちろんキリスト教一般について言及したものではないことをここに付けくわえておきます。]
 
 
 
(Photo from Tumblr)