イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、キリスト者としてブログを書いています。

現実否認はつづく

 
 悪魔的な彼女にとっては、告白する前の若者はよい獲物でしたが、告白した後にはたんなる食べかすくらいの存在にすぎません。
 
 
 人道上、まことに許しがたいことですが、かれとしては、もうこの事実を認めてしまったほうがずっと楽になれることは間違いありません。「あの子は人外の魔物にすぎなかったのだ。一刻も早く忘れてしまえ!」というわけです。
 
 
 ところが、若者がいつまでも固執して離れることができないのは、まさにその正反対のイデーです。すなわち、彼女はかれにとって、ずっと天使のままでいつづけるのです。
 
 
 「いや、あの子は本当はいい子なんだ!僕にはわかる……。」
 
 
 いつまでも同じことを聞かされる友人たちにとっては、たまったものではありません。これでもかれを見捨てない友達がいたら、かれはその友達を生涯の親友として、いつまでも大切にするべきでしょう。
 
 
 悪魔的な彼女は、今やかれの元からどんどん遠ざかってゆきます。連絡も途絶えます。それでも、かれには彼女をあきらめることができません。
 
 
 「彼女はまだ、ひょっとすると僕のことが好きなのではないか……。」若者よ、そんなはずはないではないか。それならば、なぜ彼女はあんなに早足で君のもとを去っていったというのか。
 
 
 
悪魔 地獄
 
 
 
 ここで、かれに譲歩してもいいのは、悪魔的な彼女のほうも、若者の魂を完全に奪い去るまでかれと時間を過ごしたということは、それまでのかれが嫌いだったわけでは決してないということです。
 
 
 彼女としては、好意も感じていたことでしょう。ひょっとすると、「ちょっと好きかもしれない」くらいは思ったかもしれません。
 
 
 しかし、若者よ。彼女の気持ちは、絶対にそれ以上は1ミリたりとも動くことがないのです。このさい、もっとはっきり言うならば、彼女は最初からきみと付き合う気などなかったのです。
 
 
 「そんなはずはない!彼女はあのころ、僕のことを本気で好きだったはずだ。いや、今だってひょっとしたら……。」
 
 
 若者は、自分が現実から目を背ければ背けるほど、ほかでもない自分自身が苦しむことになるのがまだわかっていません。地獄での一人相撲がつづきます。