イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

恩師からのメール

 
 哲学への愛という目下の話題については、友愛というトピックの重要性について注意を払わないわけにはゆきません。


 「哲学のスピリットは、人から人へと伝わってゆく。」


 ヘーゲルという人はこのスピリットの次元について、類まれな感性を備えていたように思われますが、話はなにも彼だけに限りません。一人の人間のうちで燃えさかる真理への愛は、また一人、さらに別の一人へと、闇を照らす炎のように次々に受け継がれてゆきます。


 本物の哲学者とはおそらく、自分のものの見方に他の人びとを従わせるというよりも、その人から発される知への熱意によって、まわりの友人たちまでもが真理の探求に駆り立てられるような人のことをいうのではないでしょうか。


 魂の目がまだそれほど曇っていない若者たちは、まるで鉄が磁石に惹きつけられるようにして、一人のソクラテスのもとに集まらずにはいないものです。そして、その若者のうちで、真理への愛を最後まで捨て去らなかった人たちがまた次のソクラテスとなって、哲学の営みがのちの世代にも引き継がれてゆくことになる。


 この世の何ものも、知ることへの憧れに突き動かされる若者を、哲学から引き離すことはできません。奴隷の身分ですら、エピクテトスが賢人になることを妨げることができないことは、実際の歴史が証明するとおりです。



哲学 エピクテトス 友情 ヘーゲル



 筆者には、もう10年近くお世話になっている恩師がいます。その先生の不思議なところは、知ることや学ぶことを愛する学生たちが、その先生のまわりになぜかいつも集まってくることです。


 「貴君は哲学をしたくてしょうがないのですよ。貴君が書いたものを読んでいれば、それがわかります。」筆者が大学を辞めたあたりで落ち込んでいる時に先生からいただいたメールには、そう書いてありました。


 それで実際の人生の流れに具体的な変化があったわけではないけれど、その言葉をかけてもらったことで、僕はこれまでの自分の人生が救われたような気がしました。10年以上哲学をやってきて、本当によかった。


 「真理はあなたがたを自由にする」というのは、筆者の好きな言葉の一つですが、この言葉には、次のような注釈をつけることもできるかもしれません。「この世には、真理を愛する自由な人たちのあいだに結ばれる友愛ほどにすばらしいものは、なかなかない。」