イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

心は何を食べるのか

 
 本題に戻ります。
 

 「フィクションは、それが善きものであるにせよ悪しきものであるにせよ、人間が思っているよりもはるかに大きいものなのではないか。」
 

 人間の心は、彼あるいは彼女が毎日触れるものによって少しずつ作り上げられてゆきます。この意味では、心の糧は、食物から摂取される栄養と少なくとも同じくらいに大切なものです。
 

 しかるに、目に見える食物の栄養バランスと比べて、この心の糧なるもののバランスについて語られることはかなり少ないのではないでしょうか。
 

 おそらく、フィクションにも健康食品、ジャンクフード、高級料理など、さまざまな区別があるものと思われます。「女と銃さえあれば映画は作れる」とジャン・リュック・ゴダールは言っていましたが、この世で人気を博するのが刺激の強いジャンクフードであることは、どうやら間違いがなさそうです。
 

 かく言う筆者自身もまた、『サウスパーク』と『あらいぐまラスカル』のどちらを見たいかと聞かれたら、まず間違いなく前者を選ぶ気がします。最良のジャンクフードがシェフの三つ星料理にも拮抗しうるというのは、この世の神秘のひとつです。
 

 ともあれ、本題に戻ります。もしも私たちが日々の糧としてフィクションを毎日食べつづけるのだとしたら、おそらくは食物に向ける注意と同じくらいの配慮を持つことが自己の健康にとって望ましいのではないだろうか。
 
 
 
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 チョコレートとワインだけを飲み食いして超高齢まで長生きした老人男性の話を聞いたこともあるので、ニーチェも言うように、ここでは各人にそれぞれの健康法があるという側面は否定できないように思われます。
 

 ただ、ラーメン二郎マクドナルドだけを狂ったようにひたすら食べつづけるのが最上の健康法であるとはおそらく誰も主張しないのと同じように、ゴダールの言う「女と銃」、すなわち、性と暴力の過剰な非合法すれすれのフィクションを摂取しつづけていると、限りなく貴重なものである魂が、後戻り不可能なしかたで破滅に向かってゆくことは避けられないように思われます。
 

 それにしても、心の健康について論じるはずが、気がつくと魂の話をしたいのか食べ物の話をしたいのかよくわからない記事になってしまった感は否めません。なお、最近ふたたび以前の勢いを取り戻しつつあるマクドナルドの新作であるしょうが焼バーガー、通称「ヤッキー」はなかなかの美味であることを最後に付け加えておくことにします。