イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

この人に聞く 第73回 : philo1985さん(哲学者)

 
 すっかり肌寒くなった12月のある日、待ち合わせていた場所にphiloさんは颯爽と現れた。今をときめくカリスマ哲学者として超多忙な日々を送っている中、無理を言って本誌のインタビューに応じてもらったのだ。
 

 「この季節、好きなんですよね。ほら、今の時期って、寒くて汗も出ないからお風呂に入らなくても大丈夫でしょ?二日や三日、こないだなんて、一週間以上シャワーすら浴びなかったこともあるくらいなんです」
 

 なるほど、予想していた以上のキモさ、いや気さくさだ。日頃の哲学の鍛錬の成果なのか、周囲の人々の目線はほとんど気にならないのだという。
 

 「今は、形而上学量子力学的基礎の問題に取り組んでいますね。マクタガートパラドックスを、波動関数の規格化という観点から読み解けるのではないかと考えているところなんです」
 

 さすが哲学者というべきか、言っていることが難しすぎて本誌記者には全然わからないけれど、哲学については理解できないことがあっても気にすることはないのだと、philoさんは優しくこちらを力づけてくれる。
 

 「僕も哲学の話をしているときは、自分でも自分で何をしゃべっているのか、全然わかっていないんです。プロの哲学者なら、大体みんなそうなんじゃないかな」
 

 なるほど、素人にはわからないけれど、philoさんくらいの域に達した人たちとなると皆そうなのだろうか。2018年の今の時点でも、理系の用語でその場を適当にごまかすことは十分に可能だと、philoさんは自らの信念を記者に語ってくれた。
 
 
 
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 少し散歩しながら話をしたあと、JR埼京線の車両に一緒に乗りこむ。philoさんは、列車内の脱毛サロンの広告に写っている川栄李奈さんを険しい表情で凝視したまま、しばらくこちらの質問には何一つ答えなかったけれど、やがて我にかえると、いま自分がプロの哲学者として日々感じていることを語ってくれた。
 

 「今から思うと、ブログを書きはじめた頃は何を書いていいのかわからないっていうくらい、とにかく気が張り詰めていたように思います。何も気にせずものを書くことができるようになったのは、本当に最近になってからです」
 

 そう言いながらphiloさんは、モンテーニュからアランにまで至る、フランス哲学における随筆の伝統について丁寧に教えてくれる。もちろん、視線は川栄李奈のポスターに釘付けになったままだ。まるでパロールのようでありながらエクリチュールとして完成されたものを書くフランス人たちのあの巧みな手法を手本として書くよう、philoさんは常に心がけつづけてきたのだという。
 

 「だから生意気なようだけど、僕も哲学者として彼らには負けたくないんです。これからはもっと自由に、僕自身の鼻毛について書いてゆきたい。最近、前よりも若干太くなってきたんじゃないかと密かに思っているところなんです」
 

 あくまでもブレることのないキモさを保ちつづけるphiloさんだが、なんと現在、著書の出版の話が持ち上がっているとのこと。自宅のプリンターとホッチキスを利用しての自費出版となる予定だそうだが、今後の泌尿器科での治療の動向も含めて、2019年もこの人から目を離せない一年になりそうだ。
 
 
(記者:philo1985)