イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

おじさんは経験論者

 
 受験の季節が近づいてきたのである。僕の塾でも、そろそろ本番に向けての追い込みがはじまりつつあるのである。
 

 「……なるほど。」
 

 あ、でもその前にいちおう確認しておくけど、前回の記事で一週間以上お風呂に入らなかったことがあるって書いたの、もちろん冗談だからね?寒いからめんどいっていうのはホントだけど、シャワーはちゃんと浴びてるのであるよ……?
 

 「……本当ですか?」
 

 本当だっての!マジで浴びてるっての!まいいや、本題に戻るとである、個別指導をやってて面白いのって、人間が学んでゆく過程はまさに千差万別だってことが心から実感されるところである。
 
 
 ある子は時間が経つと生命力自体がだんだんなくなってくけど、チョコをあげると元気になる。というわけで、こちらとしてはサク山チョコ次郎からブラックサンダーに至る数々のチョコレートを、飽きないようにヴァラエティーを備えて準備しておくことが求められる。
 

 ある子はすでにだいぶやる気になってるので、こっちがあえてスパルタっぽい雰囲気を出した方がかえって楽しそうである。この場合、必要なのはカカオよりも、むしろ彼を燃え立たせる数々の語彙であろう。最後に、ある子となると西武ライオンズの勝敗と『プロ野球スピリッツ』しかもはや頭の中にないがゆえに、わずかな数の英単語を覚えてもらう以上のことは、期待できないことも少なくない……。
 

 個別指導をやってると、まことに経験論の哲学の意義を再確認させられる。おお、デイヴィッド・ヒュームよ、ウィリアム・ジェームズよ。同じ時間は一時間たりとて存在せず、流れてゆくのは日々刻々と変化してゆく「これ性 Haecceitas」のみ……。
 
 
 
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 というわけで、クリスマスから年末年始にかけてはほぼ毎日授業が入っており、大みそかもおそらく勉強を教えているうちに夜が更けてゆくことであろうが、わが人生、もはやそれでいいのではないかという気がしているところである。昔は全然そんなこと思ってなかったけど、もしかしたらこれが天職なのかもしれぬとさえ思うことさえあってビビる。
 

 以前は毎日毎瞬つねに新しいことしてたいとか思ってたような気がするけど(我ながらアドとしか言いようがないが)、ここ数年、本当に大事なのは何かをじっくり深めてゆくことの方なのかもしれないと感じ始めちゃっているのである。自分がおじさんになりつつある気がしてマジでやばいんじゃないかという気もするけど、どこかでおじさん化もやむなしかと思っている自分もいて、何とも言えない気分である。
 

 ああ、自分もおじさんかーと思うと何となく少し脱力な感もあるけど、哲学ってたぶん本気で勝負できるのはおじさんになって以降であるのもまた確かである。その点、もはや人外の魔物としか言いようのない最強の哲学老人を目指して、日々研鑽を積んでゆくほかに進むべき道はないのではないかとも思えるのである。