イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

告白という行為の裏面

 
 A君と船越さんの方に戻ることにしましょう。
 
 
 告白の言葉:
 「わたしは、あなたのことが好きです。」
 
 
 誰でも知っていることではありますが、この告白の言葉のうちには、ある恐ろしい力動性がはらまれています。というのも、この言葉は、単に「わたしはあなたに好意を感じている」という状況を陳述するものではありえないからです。
 
 
 「わたしは、あなたのことが好きです。」この言葉は、わたしはあなたのことを所有したいと思っている、したがって、どうかわたしにあなたを所有させてほしいという懇願を意味します。そうなると、控え目な外観とは正反対に、この言葉のうちにある非常な「粗暴さ」が含まれているということは、否定しがたいのではないだろうか。
 
 
 告白の言葉の、言外の含み:
 「わたしに、お前を所有させてくれ。」
 
 
 これはいわば、「言葉で抱きしめにかかっている」とも形容しうるような言語行為です。好きでもない相手から告白されることのうちには、往々にして言い知れぬ恐怖が潜んでいるという心理学的事実は、この言語行為のうちにはらまれている、ある意味ではおぞましいとも言わざるをえない暴力性に由来するものであると言えるでしょう。
 
 
 したがって、「わたしはあなたのことが好きです」というメッセージを相手に向かって発する際には、これ以上ないというくらいに繊細な検討と注意を必要とすることは言うまでもありません。自分にとっては限りなくロマンティックであっても、ひょっとすると相手にとってはホラーでしかないのかもしれないと思うと、極めて複雑な気分に陥らざるをえないことは確かですが……。
 
 
 
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 危険な告白の言葉:
 「うふふ、もう気づいてると思うけど、ボク、キミのことが好きなんだよね」
 
 
 当人からすると、「もうわかってるでしょ?」という、はにかみの気持ちが入り混じった親しさを込めたこの告白も、相手にとっては死霊のはらわた級の純粋恐怖でしかありません。告白した彼の脳内では『Fly me to the moon』あたりのクラシック・ナンバーがムーディーに流れているかもしれませんが、告白された彼女の側からすれば、墓から蘇ってきたゾンビに襲いかかられているような気分でしかないのかもしれません。
 
 
 したがって、登場するだけで女子勢をキャーキャー言わせるジャニーズJr.級のイケメンの場合は別にするにしても、われらのような凡夫としては、告白という行為に踏み切る前に、よくよく思案しておく必要があることは言うまでもありません。リスクをゼロにまで低減するように努めておくのが、自分にとっても相手にとっても限りなく無難であるといえます(この点、次回の記事にて仔細に検討する)。