イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

愛の革命的メッセージ   ー『恋愛レボリューション21』について考える

 休日の意味について論じるために、本来はUnderworld『two months off』について論じようと思っていましたが、『Yeah!めっちゃホリディ』のテンションと連休の雰囲気につられて、今日もつんく♂さんの曲について書いてみることにしました。さて、つんく♂さんの音楽について論じるならば、このアイドルグループの曲に触れずにすますことができないことは、言うまでもないでしょう。一世を風靡したモーニング娘。のメガヒットナンバー、『恋愛レボリューション21』です!
 
 
 この曲は、全体としてはとてもクールな仕上がりになっていますが、前回の『めっちゃホリディ』と同じく、ダサさにもとづくグルーヴ感がここでも健在であることをまずは確認しておきたいと思います。当時のダンス・ミュージックやヒップホップなどの流行現象を踏まえつつ、つんく♂さんは、冒頭部分と中間部分に、謎のMCによるラップのパートをはさんでいます。「行くぞYo now」「Tonight's the night」などといった、あまりにもテンプレなセリフを連発しつづけるこのパートは、つんく♂さんによる日本国民の音楽的啓蒙の試みであるように思われます。
 
 
 「おじさんやおばさん、おじいちゃんやおばあちゃんにまでラップを聞かせてやる!」じっさい、ほとんどすべての国民が、この曲をくり返し耳にすることになりました。それにしても、安部なつみさんや中澤裕子さん、保田圭さん、後藤真希さんなどといったメンバーたちが、とても懐かしいですね。この曲もすでに、平成の文化史のかつての一コマになりつつあるのでしょうか……。
 
 
 
 
 
 
 さて、曲のほうに入りましょう。この曲はサビもいいですが、何よりもAメロがすばらしい。とても挑発的なメロディーラインで、いわば攻めてゆくAメロであるといえます。歌詞は、次のようになっています。
 
 
乾杯Baby! 紙コップでYeah! いいんじゃない
OH YES  気持ちが大事
飾りはBaby! あるものでYeah! In the night
OH YES アイディア勝負
 
 
 ここで思い描かれているのは、きつい仕事が終わったあとのオフィスでの、仲間内での秘密の飲み会でしょうか。それとも、若者たちが集まってきて思いつきで始める、夜のパーティーでしょうか。とにかく、「準備なんてなくてもいいから、とにかく盛り上がれ!」という、つんく♂さんの魂のメッセージが凝縮されたパートです。
 
 
 詩や文学の言葉を愛する人は、「いいんじゃない」と「In the night」の韻の踏み方がここで奇跡的とも呼べるレベルの高みに達していることを、見逃しはしないでしょう。この二つのフレーズは、やむにやまれぬテンションの勢いを示唆するものであるという点で共鳴しています。音と意味の結びつきはこの箇所において、もはや芸術作品の領域にまで踏みこんでいるといえます。きわめて難解な小説を書いた作家であるジェームズ・ジョイスは、生まれ故郷であるダブリンの流行歌をとても愛していたそうですが、大衆文化のうちに、時おりどんなファイン・アートも見つけたことのない美が現れるという事実は否定できません。芸術とエンターテインメントが区別できなくなる瞬間は、ふだん思っている以上に多いということなのでしょう。
 
 
 「超超超  いい感じ   超超超超いい感じ」の箇所も、すばらしいですね。Bメロでは恋のことで悩んでいたはずなのに、ここではなぜか、打って変わってノリノリです。つんく♂さんにとっては、悩みの要素もテンションを上げるための道具でしかないかのようです。
 
 
 最後に、サビのパートですが、この箇所は、実はとてつもなく大きなトピックを歌いあげています。「愛の歴史を刻んできた、この地球。この惑星は、恋をしたときも寝坊したときも、そのすべてを包みこむようにして、私たちを見守りつづけてきた。いま必要なのは、地球上に生きるすべての人が、ただちに愛に目覚めることだ。21世紀を生きる私たちの手で、革命を起こそう。それはかつての時代におけるような、血による革命ではなく、愛の革命なのだ!」
 
 
 こうしたメッセージは、下手をするとカルト宗教すれすれのものになってしまいかねませんが、この革命的メッセージを国民的アイドルグループのメンバーたちに歌わせて、億単位の人びとのもとに届けてしまったところに、つんく♂さんの偉大な達成があります。よく考えてみると、恋愛というものはどこまでいってもプライベートなものであるはずなのに、「みんなで恋愛革命」という歌詞を、さりげなくもぐりこませてしまう。つんく♂さんはひょっとすると、かつての生で悟りを得て、悩み苦しむ私たち衆生を助けるために再びこの世に現れた菩薩なのかもしれないとさえ思えてきます。誰もいない部屋のなかで聞いていても、どこか一人ではない気がしてくる、そうした名曲に仕上がっています。
 
 
 
モーニング娘。 恋愛レボリューション21
 
 
 
(Photo from Tumblr)