イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

レディオヘッド『魔女を焼け』

 
 前回までの『人権はリアルである』に内容が関連するので、今回は、レディオヘッドの最近の楽曲『Burn the witch(魔女を焼け)』を簡潔に分析してみることにしましょう。この作品は、近年の先進国の人びとのメンタリティをあざやかに切りとった名曲であるように思われます。


Radiohead/Burn The Witch



 
 「影の中にひそんでろ   絞首台で歓声をあげろ
  Stay in the shadows     Cheer at the gallows」


 現代人の心のあり方を、断片的な歌詞によって一言でピタリと言い当てるのはトム・ヨークの得意とするスタイルですが、この曲の歌い出しにおいても、まさにこのスタイルがいかんなく発揮されているといえます。


 物陰に隠れて、安全なところからスケープゴートに言葉のリンチを浴びせる現代の暴徒たちは、リアルの世界にはけっして姿を見せません。芸能人のスキャンダルでいつも大騒ぎしているTVの情報番組や、毎日かかさず行われているインターネット上の炎上のショーは、トム・ヨークの目には、絞首台のまわりで残酷な喜びの声をあげる民衆の姿に重なって見えているのでしょう。



人権 レディオヘッド Burn The Witch トム・ヨーク スケープゴート



 「ジュークボックスの歌に合わせて歌うんだ  さぁ……」という言葉の後にくるサビのパートは、レディオヘッドの世界観のエッセンスを、短いリフレインのうちに見事に凝縮したものです。

 
 「『魔女を焼け  魔女を焼け  お前がどこに住んでるか知ってるぞ』
  ”Burn the witch    Burn the witch    We know where you live”」


  そんなに人を匿名で傷めつけたいならば、いっそ魔女狩りでもして誰かを火あぶりにすればいいではないかというトム・ヨークの皮肉は実に痛烈ですが、アイロニーとカタルシスが分かちがたく入り混じったこのリフレインは、まるで子供向けの教育番組のテーマ曲のようにわざとらしく明るい曲の音作りと互いに引き立てあっています。


 「魔女を焼け」というトム・ヨークの叫びは、この部分だけで、私たちの時代のうちにひそんでいる暴力にたいする鋭い批判になっているように思います。ジャーナリズムが扱うようなトピックを、スピリチュアルで悪霊的とさえもいえるヴィジョンのうちに昇華させることができるのは、それこそレディオヘッドくらいのものですが、かわいらしい人形のPVと合わせて、ベテランの技が光っている一曲に仕上がっているといえそうです。




 
 
 
 
トム・ヨークについては、以前にソロ活動での楽曲『Eraser』について論じたことがあります。]
 

   

   

 
(Photo from Tumblr)