イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

哲学のススメ?

 うーむ、わからん。はたして、何を言ったらよいものか……。
 
 
 「……どうしたんですか?」
 
 
 ああ、うん。いやね、僕はこの間、A君という青年と少し話をしたのだ。
 
 
 A君はちょっと暴走気味のところもあるが、前途有望で元気のいい高校二年生なのである。ただこの子、いったん興奮しだすと止まらない気質の持ち主で、この間も熱に浮かされたような調子で、僕にこう言うんだな。
 
 
 A君の意志表明:
 先生、僕はですね、将来、哲学の道に進もうと思うんです。
 
 
 聞くところによると、A君は最近同級生の女の子にこっぴどくフラれたかなんかで、ひたすら煩悶しまくったらしい。僕はなんでこの世に存在してるんだとか、先生2ヶ月もメールが返ってこないってどういうことなんですかとか、色々叫んでた。
 
 
 A君は魂の行き場を見失って散々さまよったあげく、悩める人間の慰めは書物のほかにないという、幾多の先人たちと同じ結論にたどり着いた。んで、A君は何冊目かの本を読みふけってたあたりで、世の中には哲学という営みがあるらしいということに改めて気づかされたらしいのである。
 
 
 A君的には、哲学って何やるもんなのかはまだよくわかんないけど、ここにこそ自分の求めるものはあるんじゃないかって感じがしているらしい。それで、A君はいったん走り出したらそう簡単には止まらない性格なもんだから、さっき言ったような発言も出てきたというわけなんだけどね……。
 
 
 
 哲学
 
 
 
 A君も人生まだまだこれからだし、いま哲学をやるって言ってるからといって、別にそれで確定ってわけではないであろう。昨日言ってたことを今日ひっくり返すってのは、若者の特権でもあろうし……。しかし、僕の頭には彼と話して以来、ある疑問が取りついて離れなくなってしまったのだ。
 
 
 philo1985の問い:
 前途有望な青少年に「僕は/わたしは哲学の道に進むべきですか?」と本気で尋ねられた場合、何と答えるべきか?
 
 
 僕とて、全力でYESと答えたい気持ちがないわけではない。だが、やっちゃいなよ、YOU哲学やっちゃいなよと気軽に勧めてしまっては、その子の人生を狂わせてしまうんじゃないかという気がしないでもない。
 
 
 言うまでもなく、時代は哲学に対して風向きがよいわけではない。まあ、哲学に風向きのいい時代なんてあるのかどうかも、そもそも疑問ではあるが……。
 
 
 だがしかしだ、哲学やってる人間が哲学を勧めずして、いったい誰が哲学を広めるのよ。というわけで、これから少し、哲学の道に進むべき根拠について考えてみようと思うのだが、早くもやっぱやめとこうかなって気がしはじめてる自分がいて萎える。この気持ち、同じ道をゆく人の何人かにはわかってもらえるんじゃないかとは思うんだけど、今からその辺りをうじうじ考えてみることにする……。