イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

自由な言論が、日本のホワイト化を進める!   ーゆったりと働ける国をめざして

 
 前回の記事で見たように、私たち日本人が働きすぎてしまう最も大きな理由の一つは、「とにかく、死にものぐるいで働かなければならない!」という空気がこの国のいたるところに存在しているからであるように思います。空気というものはなかなか数量的なデータにしにくいので、ニュースなどでは見過ごされてしまいがちですが、この空気なるものがいかに私たちにたいして強く働いているかということについては、ふだんの生活からも実感できるのではないでしょうか。
 
 
 それでは、どうしたら状況を変えてゆくことができるのでしょうか?ことが簡単には運ばないのはもちろんですが、その一方で、ここには私たちにとって、とても有利に働く事情があるように思います。それは、すでに触れたことですが、「この国の中で、この問題から無関係な人はほとんど誰一人としていない」ということです。
 
 
 職場がブラックで、しばしばとても辛い思いをしている。あるいは、仕事がきつすぎて、友人が鬱病になって仕事を辞めてしまった。自分自身にせよ、まわりの人びとにせよ、おそらく、こうした問題にまったく出会ったことがないという人の数は、かぎりなくゼロに近いのではないかと思われます。
 
 
 ここで事態をポジティブに考えてみるならば、こうした事情を、大きなチャンスに変えてゆくこともできるのではないでしょうか?
 
 
 一般的にいって、ある社会問題に関心をもたない人が大勢いるために、その問題の解決が難しいものになっているというケースは数しれません。社会にとって必要ではあるけれども、みなの関心がそちらに向いていないために放置されてしまっている問題は、今のこの国にもたくさん存在しています。
 
 
 いっぽう、「日本人の働く環境」というテーマはどうでしょうか?この問題については、なんと、じつに1億以上の人びとがダイレクトな関わりを持っています!世代間の認識の違いを考慮に入れるにしても、若い人たちだけで、ほとんど数千万規模の人が巻きこまれていることになります。
 
 
 この「日本ホワイト化プロジェクト」では、こうした事情を踏まえて、日本人がもっとゆったりと働ける環境を作ってゆくための有力な方策として、次のようなものを指摘してみたいと思います。すなわち、「自由な言論空間を作ってゆくことが、日本のホワイト化を促進してゆく。」これから、この論点について詳しく見てみることにしましょう。
 
 
 
日本ホワイト化プロジェクト 虎ノ門ヒルズ 自由な言論
 
 
 
 僕が今回のシリーズを始めようと思ったきっかけの一つは、まりおさんをはじめとして、働くことについて発言している人の数がとても多いことに驚いたことでした。ブログやツイッターをはじめとして、専門家たちだけではなく、何よりも働いている社会人の方たち自身が、インターネット上のいたるところで言葉を発している。この国の空気を変えてゆくうえでは、こうした事情こそが最も重要なものになってくるのではないでしょうか。
 
 
 「私たちは、働きすぎている!」「もっとゆったりと働ける国であってほしい!」すでに現在の時点でも、こうしたメッセージを発信している人びとは無数にいますが、まだ積極的には発言していない人も含めると、こうした声に共感する人たちが、おそらく数千万規模で存在していることと思います。この問題については、言論をさらに盛んなものにしてゆくための土台が、すでに大部分のところできあがっているというわけです。いわば、この国の全体が、発火する直前のダイナマイトの状態にあるとでもいえるでしょうか……!
 
 
 一人一人の人間のうちには、自由に言葉を発するポテンシャルが存在しています。こうした言論へのポテンシャルこそが、この社会を実際に変えてゆくための力になりうるのではないか。長い目でみるならば、自由な言論の力によって日本人が働く環境を変えてゆけるのではないかというのが、「日本ホワイト化プロジェクト」が提案する解決策です。
 
 
 この国では、言葉の力にたいする信頼が、まだそれほど強くありません。とくに、社会問題ともなると、「結局そんなこと言ったって、実際には何も変わらないのではないか……。」という声は、今でもとても根づよいものです。
 
 
 けれども、言葉の力は、この社会を今も実際に変えつつあります。たとえば、「ブラック企業」という言葉が流行する前には、この問題は、その存在さえもが社会のなかできちんと認識されていませんでした!今では、子供から老人にいたるまで、ほとんどすべての人がブラック企業という言葉を知っていますし、そのおかげでブラック企業の問題は、まだとうてい解決とはゆかないまでも、改善の方向にむかって大きく前進しつつあります。このことは、言葉の力によって現実が変わってゆくことのよい例だといえるのではないでしょうか。
 
 
 自分の職場を変えてゆくのは難しいけれども、ブログやツイッター、他の人の記事にたいするコメントなどといったかたちで発言してゆくことは、気軽にできます。すでにインターネットの世界の言論はかなり活発なものになっているので、そこに参加するのはとても簡単です。
 
 
 僕個人の例でいうと、今回、このはてなブログをきっかけにして、まりおさんやNさんと対話させていただいたことで、インターネットが現実の世界に働きかける力をあらためて実感しました。それにしても、コーヒーに加えて、おいしいアイスクリームまでおごっていただいてしまったのは、申し訳ないかぎりです……。
 
 
 『もっと言葉を!』というシリーズでは、言論の世界の未来について論じましたが、「日本人の働く環境」というテーマは、それぞれの人が自由な言論の力を最も発揮してゆきやすい領域の一つなのではないかと思います。それでは、どのようなしかたで発言してゆけば、具体的に状況を改善してゆくことができるのでしょうか?「日本ホワイト化プロジェクト」から、取りうる二つの方向性を提示してみたいと思います。
 
 
(つづく)
 
 
 
 
 
 
 
 
[言論の世界の未来については、すでに『もっと言葉を!』というシリーズにおいて論じました。もしよろしければ、そちらの方もご覧ください。]