イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

「不安」こそが、実存のリアルを開示する:Sein zum Todeにおける真実の問題

「死への先駆」の概念の掘り下げも、そろそろ大詰めを迎えつつあるようである。ハイデッガーが垣間見ていた「実存の本来性」の深みへと潜ってゆくことを目指して、仕上げの作業に取り組むこととしたい。 論点: 「死への先駆」は、人間存在を脅かしている深…

リアルな人間として生き始めること:「世界内存在」の概念をめぐって

前回の記事で取り上げた一節をもう一度引用しつつ、そこに含まれている「世界内存在を確実なものとする」という表現について、掘り下げて考えてみることにしたい。 「死を真とみなして保持することー死はそのつどじぶんに固有な死であるーは、世界内部的に出…

「先駆」は存在論の次元を要求する:1927年の『存在と時間』出版は、なぜそれほどまでに衝撃的であったか

私たちは『存在と時間』が問題としている根本事象の方へと、次第に近づきつつある。ハイデッガーの次の一節を読みつつ、「死への先駆」の概念を仕上げるという課題に取り組んでゆくこととしたい。 「死を真とみなして保持することー死はそのつどじぶんに固有…

『パイドロス』が語っていること:プラトンのテクストにおける「本来的な仕方で実存すること」の契機について

私たちは、「先駆すること」の契機のうちに含まれる「時間性」の問題について、すでに見てきた。『存在と時間』の議論の方へと本格的な仕方で戻ってゆく前に、今回はこの論点を深めておくためにもう一人、別の哲学者のテクストを見ておくことにしたい。 「ち…

「実存的なあり方の第一次的な意味は将来なのである」:『存在と時間』の時間論、あるいは、20世紀哲学における「未来時の持つ根源的な力能の次元の発見」について

パスカルの「賭け」に関する議論については、私たちはすでにその行程をたどり終えた。今や、そこで獲得された成果から、『存在と時間』における議論の核心部の方へと歩みを向け直すべき時である。 論点: 20世紀の思索が向かう方向を決定づけた書物である『…

「この賭けには、勝つという以外の結果はありえない」:ブレーズ・パスカルは「実存することの奥義」について、何を語っているのか

『パンセ』断片233をめぐる私たちの検討も、終わりに近づきつつある。パスカルが「賭けの奥義」とでも呼びうるようなモメントについて語っている箇所を引用しつつ、「実存は賭けである」を存在論的なテーゼとして仕上げるべく試みてみることとしたい。 「以…

「見よ、すべてが新しくなったのである」:賭けに出ることへの「ためらい」の問題に対する、『パンセ』の処方箋

「賭け」に関する議論も、そろそろ大詰めである。『存在と時間』の方に戻ってゆくという意味でも、私たちは最後の主題として、次のような問いについて改めて考えておくことにしたい。 問い: 「『実存は賭けである』というテーゼについては、確かに了解した…

「最も根源的な真理とは、実存の真理である」:パスカルの場合を通して、『存在と時間』の根本テーゼについて考える

今回は、パスカルが残した次の言葉を読み解くという形で探求を進めてゆくこととしたい。 「哲学をばかにすることこそ、真に哲学することである。」(『パンセ』ブランシュヴィック版、断片4より) すでに触れたように、パスカルが生きていた17世紀に開始され…