イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

反出生主義との対話

貧者と病人

反出生主義が提起する問題に部分的な共感を覚えつつ筆者が提出したいのは、次のようなテーゼです。 悲惨の存在テーゼ: 1.この世には、耐えがたいほどの苦しみが存在する。 2.しかし、その程度には人ごとに、決して小さくない違いがある。 1の側面に正面か…

サドよ、呪われし同時代人たる汝は……。

「あなたはなぜ生きているのか」という問いに対する、反出生主義者の第三の回答を見てみることにします。 反出生主義者の回答その3: 「わたしがまだ生きているのは、身近な他者に迷惑をかけないためである。」 きわめて常識的な答えではありますが、この回…

「偽物の選別」

「あなたは、なぜまだ生きているのか?」という問いに対する反出生主義者の二番目の回答は、誤答(?)を取り上げてみることにしましょう。 反出生主義者の回答その2: 「わたしが生きているのは、死ぬのが怖いからである。」 一般人であれば「むべなるかな…

行為は語る

それにしても、人類の絶滅という「公共善」を実現するためには(この点については前回の記事を参照)、反出生主義者は、果てしなく困難な道を歩むことを求められているといえるのではないだろうか。 「反出生主義者は自らの目標の実現のために、人格の完成を…

滅びとしての公共善

「あなたは、なぜまだ生きているのか?」という問いに対する、反出生主義者の答えを検討してみることにしましょう。 反出生主義者の回答その1: 「私がまだ生きているのは、人類の善の促進のためである。」 この場合、善とは人類の可及的速やかな絶滅の完了…

目標の達成?

まずは、多くのひとが反出生主義者に対して抱くであろうと思われる(?)疑問を取りあげてみることにします。 「存在することが害でしかないなら、あなたはなぜまだ生きているのか?」 個人的な痛みを抱えている自殺志願者とは異なり、反出生主義者は、存在…

反出生主義という思想

今回からの探求は、次の言葉を取り上げることから始めたいと思います。 「生まれてこなければよかった。 Better never to have been.」 デイヴィッド・ベネターの著書のタイトルにもなっているこの言葉は、彼の書物のみならず、あらゆる時代の思想や文学のテ…