イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『ゴルギアス』が語ること:「不安」についての分析の終わりに

不安の現象を通して、現存在であるところの人間の根源的なあり方はついに、「気づかい」として規定されることになった。この現象についての分析を締めくくるにあたって、次のような問いを考えておくことにしたい。 問い: 「あなたは『不安』の奥底にまで突…

人間の存在はいまや、「自己への配慮」として露呈される:『存在と時間』の根本概念「気づかい Sorge」

これまで不安の現象について見てきたところから、ハイデッガーは、現存在であるところの人間の存在を「気づかい」として規定することへと向かってゆく。その道程を、ここで簡潔に再構成しておくことにしよう。 ① 人間は、不安からは逃れることができない。忘…

生はその秘密を、「恐るべきもの」の後ろに隠す:「自由のめまい」としての不安

不安の気分をめぐる分析は、「可能性に関わる存在」としての人間の姿を浮き彫りにしつつある。しかし、このことは、生の経験それ自体と、それを描き出す実存論的分析の間に結ばれる、一筋縄ではゆかない関係の存在を指し示さずにはおかないのではないか。 不…

「可能性に関わる存在」:キルケゴールの例を通して

不安の気分は、人間の「剥き出しの生」をそれとして開示する。しかし、不安が不安がるとは一体、実存論的-存在論的に見るならばどのような事態であると言えるのだろうか。この点をさらに解明するために手がかりとなるのは、不安とは、不気味なものの「予感」…

不安が露呈させるのは、「剥き出しの生」にほかならない

ハイデッガー自身の言葉を手がかりにして、さらに不安の分析を進めてゆくこととしたい。 「不安の〈なにをまえに〉は完全に未規定的である。[…]手もとにあるものや目のまえにあるものにかんしては、世界内部的に、その適所全体性が覆いをとって発見される…

不気味さは特定の対象を持たない:「不安」と「恐れ」との違いについて

まずは古典的とも言える論点を確認するところから、議論を始めることにしよう。 論点: 恐れとは異なって、不安は、世界のうちに存在する特定の存在者を不安の対象として持つわけではない。 恐れの気分について、まずは考えてみる。現存在であるところのわた…

「危機のただ中で、生を掴みとる」:アガンベンからハイデッガーへ

ハイデッガーとアガンベンの議論の交錯という点に、話を進めよう。 ジョルジョ・アガンベンの思考を、あくまでも今回の論点に関わる限りではあるが、たどり直してみる。日常性、あるいは通常状態においては、政治体の真理は十全な仕方で明かされることがない…

例外状態の政治哲学:ジョルジョ・アガンベンの思考と、2021年のグローバル秩序の現在

不安の現象に本格的に足を踏み入れてゆく前に、一つの論点を確認しておくことにしたい。 論点: これより後に扱われることになる「不安」「死」「良心の呼び声」の現象は、生の例外状態的次元とでも呼ぶべき領域の存在を指し示している。 今回と次回の記事で…

「不安」の分析へ:実存の本来性という圏域への導入

現存在の日常性についての分析をたどり終えた私たちは今や、実存の本来性という問題圏へと進んでゆこうとしている。この問題圏へと入ってゆくための導きの役割を果たすのはハイデッガーによれば、「不安」の現象にほかならない。 論点: 「不安」の現象は、…

「何事も、立派なことは……。」:〈ひと〉論について、論じ終えるにあたって

私たちは『存在と時間』の〈ひと〉論について、論じておくべき論点についてはたどり終えた。ここまで来て、「世界内存在しているのは誰か?」という、この本の最初で提起された三つの問いの最後の一つには、答えが与えられたことなる。 問い: 世界内存在し…

パルメニデスの「二つの道」:ハイデッガーと決断の問題

ハイデッガーは『存在と時間』第44節bにおいて、自らの議論を、パルメニデスが描き出す「二つの道」のあり方に重ね合わせている。〈ひと〉論もそろそろ大詰めを迎えつつあるが、今回の記事では、その交錯のありようを見ておくことにしよう。 古代ギリシアの…

実存から存在へ:『存在と時間』の根本課題

〈ひと〉と頽落の概念の検討を通して、私たちは、『存在と時間』が向き合っている根本問題に到達することになる。 論点: 『存在と時間』において、存在の意味への問いは、現存在、すなわち人間が実存することの問いへと収斂してゆく。 存在することの、〈あ…

生きることはたえず、滑り落ちてゆく:存在忘却の根源にあるもの

現存在であるところの人間は、日常性においては常にすでに、世界の方へと頽落している。この「頽落」の機構との関連で考えるとき、「現存在は非真理のうちに存在している」というすでに見たテーゼは、さらに深い射程を示すようになると言えるのではないか。 …