イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

存在論的なへり下りについて

わたしが、無意識のうちに自分のことを人間以上のものとみなしてしまう危険をつねに抱えていること。また、わたしが、自分でも気づかないところで、わたし以外の人のことを傷つけている可能性がつねに存在しているということ。 わたしというものの存在論的な…

わたしの本当の姿は……。

「革命家は、この世で一種の超人としてふるまうことを望んでいる。」超人と言ってしまうと、映画やマンガの世界にしか関わりを持たないようにも見えますが、この欲望が私たち自身の無意識のうちに潜在していることには注意しておいたほうがよいかもしれませ…

超人への欲望

ラ・マルセイエーズは、革命のために流される血への賛歌です。「殺してでも世界を変える」という革命家の決意は、はたして正当化されうるものなのでしょうか。 私たち人間には完全に正しい裁定を下すことができないのは、言うまでもありません。「フランス革…

おお、ロベス・ピエール

「倫理法則は、わたしが自分自身の特権性を放棄して、自分のことをたんなる人間の一人として扱うことを要求する。」このことの哲学的な帰結は、きわめて重要なものをはらんでいるように思われます。 このイデーにしたがうなら、倫理なるものは、わたしと他者…

倫理はへり下りを要求する

私たちは、絶対性、普遍性、完全性という倫理法則の性質の三位一体を探っている途中で、完全な愛というイデーに出会いました。 このイデーはとても興味深いものですが、今の目的は倫理の根拠を問うことなので、とりあえず倫理の原則のほうに立ち戻ることにし…

完全な愛

倫理法則について、絶対性と普遍性についで三つ目に論じておきたいのは、完全性という性質です。 後ほど詳しく論じたいと思いますが、「あなたは、悪を行ってはならない」という原則のうちには、愛の次元が働いているように思われます。 「あなたは何があっ…

開かれへのベクトル

「あなたは、他者に害を与えてはならない。」この倫理原則の要求の絶対性については、すでに見ました。ところで、この要求についてはまた、普遍性という性質のことも忘れることができません。 倫理法則は、あらゆる他者にたいして守られるべきものです。そこ…

倫理と超越

「あなたは、悪を行ってはならない。」どうやら、倫理なるものは、たとえ現実がどのようなものであろうとも、みずからの要求を果たすように人間に要求してくるもののようです。 この要求はいわば、絶対的なものであるといえます。イデア的なものは、現実のこ…

悪のない世界

倫理のための倫理というイデーにしたがって考えるなら、他者を害することは、悪そのものに他なりません。したがって、この路線でゆくと、すでに見てきた倫理の原則は、「あなたは、悪を行ってはならない」と言いかえることもできることになります。 この現実…

第二のアプローチ: 倫理のための倫理

さて、「利益のための倫理」というイデーとは、そろそろ手を切ることにしましょう。すでに、さまざまな欠陥が示されていますし、何よりも、利益と倫理という言葉では、あまりにも相性がよくないように思われます。 さて、そうなると、倫理の根拠は、次のよう…

平和だったはずが……。

誰もが自分の生活の安定しか考えていないけれどもとても住みやすい、「平和ないい国」。あの悪魔であればこの国について、次のように言うかもしれません。 「すばらしい国に見えるが、わたしにはわかる。この国の人びとは、根本のところでは、わたしの同類だ…

「平和ないい国」

前回は、利益という観点からのみ倫理法則を受け入れるという場合の極端なケースを見てみましたが、私たちは、もう少し控え目なケースを考えてみることもできるかもしれません。 ここでは思考実験として、ある「平和ないい国」のことを思い描いてみることにし…

危険な国

「自分自身の安全と利益のためにも、倫理法則を受け入れるべきである。」もしも人間がこのロジックだけでゆこうとすると、欠陥は、より大きなスケールで現れてこざるをえないように思われます。 いま、ある国の指導者が国民たちに向けて、こう宣言するとしま…

悪魔のひとりごと

「自分自身の利益と安全のためにも、倫理法則を受け入れるべきである。」この第一の論には小さくない利点もありますが、無視できない欠陥もあることがすぐに明らかになります。 仮に、社会を構成するメンバーの全員がこの論を受け入れたとしてみましょう。こ…

第一のアプローチ: 利益のための倫理

今回の探求では、倫理法則を一つの原則のうちに集約させておくことにしましょう。その原則とは、「あなたは、他者に害を加えてはならない」というものです。 倫理法則はふつう、「〜してはならない」という形をとりますが、とりあえずのところは、上の定式で…