イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

痛みの真理

論点: 他者の真理についての問いは、他者との別離あるいは喪失の経験を通して、その切実さを増してゆく。 「わたしはあなたについて、何を知っていたのだろう。」このような問いが痛みとともに切実さを帯びてくるのは、多くの場合、わたしがあなたを失った…

出会うことと喪うこと

論点: 近さの関係を築くことのできる相手とは、人生の中でも限られた数しか出会うことができない。 会う時刻と場所、言葉や行動といったさまざまな点において、近さの関係のうちにあるあなたとわたしが過ごす時間は、習慣の次元と深く結びついている。近し…

二人でいることの病い

次の論点に進む前に、一点付け加えておきたいことがある。 論点: 哲学の営みは、公共世界からの遠ざかりと共にしかなされえないのではないだろうか。 公共世界では政治・経済・社会などといったさまざまな領域について、常に多くのことが論じられている。し…

公共世界と近さの概念

探求の出発点: わたしが本当の意味で多くを知ることができるのは、わたしが深く関わることになる他者だけである。 学校や職場などといった公共世界のうちでは、人間は、自分自身の実存を多かれ少なかれ特定の様態へと切り詰めるのでなければ生きてゆくこと…

他者の問題圏へ

今回の探求の主題は、次のものである。 問い: わたしは他者について、何を知りうるか?そして、その他者といかにして関わるべきか? このような問いを立てることの背景には、主に言って二つの動機がある。まず最初に、前回の探求からの続きとして、「わたし…

真理問題をめぐる探求にひと区切りをつけるにあたって

「真理とは何か」という問いに対する目下の結論: 真理とは、認識の主体であるわたしを超えて、あるものが、それがある通りにあるという、そのことである。 この結論のうちには、これまで論じてきた存在の真理の次元と本質の真理の次元とがともどもに凝縮さ…

伝統的真理観としての一致と、その理念が提起する問題について

論点: 真理の超絶というイデーは、一致はいかにして可能なのかという問題を提起せずにはおかないであろう。 「真理とは、あるものが、それがある通りにあるという、そのことである。」真理を第一義的にはこのように定義するとしても、第二義的には「真理と…

真理問題に対する、これまでの哲学の伝統について

問題提起: 命題の真理、そして、人間が知りうるあらゆる真理は、真理そのものの次元に対して二次的なものにすぎないのではないか。 「真理とは、あるものが、それがある通りにあるという、そのことである。」もし真理がこのように定義されるのであるとすれ…

真理は二つ折れとして与えられる

真理の定義: 真理とは、あるものが、それがある通りにあるという、そのことである。 上の定義について、あと何点か付け加えて論じておくこととしたい。 上の定義には、「それがある通りに」という規定が含まれている。このことは、この定義のうちにはここ一…

真理の超絶

論点: 真理は、たとえ人間によって発見されることがなくとも真理であり続ける。 ハイデッガーの『存在と時間』においては、「人間は真理を発見することができる」から「真理とは、人間が発見することである」へのラディカルな移行を見て取ることができる。…

ハイデッガーへの疑義

論点: 真理は、第一義的には「覆いをとって発見すること」とは別のところで考えられる必要があるのではないか。 根本的なところから考え直してみることにしよう。ハイデッガーが『存在と時間』において主張したように、真理は本当に、発見されるからこそ真…

開示性としての真理概念

論点: 命題が世界について真なることを語るという事実のうちには、何か真に驚嘆すべきものがある。 いかなる命題においても、それが真なる命題である限り、そこには「ある」の受け入れがある(前回の記事参照)。そうなると、同じ命題の形をしていても、真…

命題と判断

論点: 命題の真理の真理性は奥深いところで、存在の真理によって基礎づけられている。 たとえばわたしが野原で、「この野原には、一本の木が立っている」と口にするとする。 この野原には実際、一本の木が立っている。この言明は命題として見るならば、真で…

無意味の問いが発されることのうちで……。

存在の真理: 存在者が存在する。あるいは、その極点においてはもはや存在者がではなく、「存在が存在する」。 現代の人間の抱えている問い、そして、あらゆる時代の人間が向き合い続けてきた問いとは、「本当は、すべてのことは無意味ではないのか?」とい…

眠りからの目覚めは……。

論点: 無ではなく、「ある」がある。 私たちは完全な無というものを一度も経験したことがなく、気がついた時には、すでに無数の存在者たちからなる世界の中に投げ込まれていた。しかし、それでもなお私たちにとって「そもそも、何かがあるというのではなく…