イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

2018-03-01から1ヶ月間の記事一覧

命の代替不可能性

デスノート主義者の主張を、もう少し検討してみることにします。 新世界到来の プラス面……暴虐と悲惨の完全な消滅 マイナス面……いくぶんかの犠牲者 新世界の到来に際するプラス面とマイナス面を比較した場合、プラスの要素の大きさには無視できないものがあ…

ノート使用者とプロレタリアート

次のような立場を検討してみることにしましょう。 デスノート主義者の立場: 新世界が実現されるならば、デスノートを使用したことは罪にはならない。 デスノート使用者は、新世界の到来によってもたらされる変化のプラス面とマイナス面の比較を通じて、この…

デスノート問題の中核へ

まずは、恐怖による新世界から自発性による新世界へという、前回の論点をもう一度確認しておくことにします(議論の詳細については、前回の記事を参照)。 1. 恐怖による新世界。道徳法則の普遍的遵守が、罰されることへの恐怖からなされる。 2. 自発性によ…

倒錯か、真の愛か……。

次の論点に進みます。 「デスノート使用者は、自らが作り上げた新世界がやがて恐怖から解放されてゆくことを期待する。」 新世界とは、もはや誰も他人を傷つけることのない世界です(道徳法則の普遍的遵守)。これは、最初のうちは罰への恐れ、すなわち、悪…

居心地のよくない二択

デスノートによる「新世界」の到来という問題圏はおそらく、次のような二択を人間に迫るのではないでしょうか。 1. 今の世界: 恐怖は存在しないが、暴力の犠牲になる他者は存在する。 2. 「新世界」: 恐怖はすべての人に及ぶが、暴力の犠牲になる他者は存…

新しい秩序へ

そろそろ、問いかけの方向を向け変えてみることにします。 「デスノートによって実現される新世界は、今のこの世界よりも善いものであると言えるだろうか。」 いま仮に、デスノート使用者による「粛清」の企てがことごとく成功し、彼の望む世界が到来したと…

堕落を糾弾するサディスト

先に進みます。 デスノート使用者の論理その4: 世界が公共善に関する無知の状態に置かれている以上、デスノート使用者としても「実力行使」による改革に乗り出さないわけにはゆかない。 今の世界は、救いがたいほどまでに堕落している。これが、デスノート…

「勝てば官軍」

今回は、次の論点について考えてみることにします。 「人間は、それが善きものであれ悪しきものであれ、力そのものを崇拝する傾向を持つ。」 この国における最も分かりやすい例の一つとして、織田信長をめぐる評価のあり方を挙げることができるかと思います…

逆転の瞬間

先に進みましょう。 「デスノート使用者は、人類の全体と少なくとも暫定的には対立する。」 主観的には暴虐と悲惨のない世界へ向けて邁進するデスノート使用者ですが、他の人々は、少なくとも最初のあいだは彼を単なる大量殺人犯とみなすことでしょう。 した…

粛清の血は路地の溝を流れる

100人のための1人の犠牲というロジックが仮に認められたとしても(詳細については前回の記事を参照)、その際には次のような問いを避けることができません。 「例外状態において、生きる人間と死ぬ人間との決定を、誰が行うことができるのか。」 この問いに…

例外者の論理

「デスノートの使用は、公共善のための殺人はありうるかという問題を提起している。」 前回に見たロジックをもう少し掘り下げてみることにします。「粛清」によって世界の変革に乗り出すデスノート使用者にとっても、人を殺すことが基本的に悪であることには…

「今はやむを得ない」

デスノートによって世界の変革に乗り出すにあたっては、ただちに次のような反対意見に遭遇することが予想されます。 デスノート使用者への糾弾: 「自分だけは人を殺していいだなんて、あなたは自分を何だと思っているのか。」 この糾弾に対しては、おおむね…

ノートによる裁き。あるいは、誰の名前を書くべきか?

まずは、次の点を確認しておくことにします。 「デスノートによる世界の変革は、天の裁きというイデーを媒介として行われる。」 私利私欲のためではなく、公共善の促進のためにデスノートを使用してゆくという場合には、一般に「悪人」と呼ばれている人々の…

デスノート問題

今回からの探求では、次のような問題について考えてみることにします。 デスノート問題: 名前を書けばその人を殺すことのできるノートを拾ったとして、そのノートを使って世界を変えることは罪だろうか。 映画にTVドラマ、ミュージカルなど、週刊少年ジャン…

寄る辺なさを否認することはできない

地獄についての考察を終えるにあたって、次の点を改めて確認しておくことにします。 「死後のことについては、私たちは無知である。」 人間に間違いなくわかっているのはただ、自分の身体が、いつの日か朽ち果てて死ぬであろうということだけです。その後に…

地獄についての筆者個人の見解

地獄についての考察からは、次のような帰結を引き出すことができそうです。 「人間は、自分が口にする言葉には気をつける必要がある。」 この場合でいえば、例えば、次のような言明は避けたほうが無難なのではないか。 地獄についての不用意な発言例その1: …