イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

無条件の受け入れ

これまで剥奪と暴力のモメントについて見てきましたが、ここからは、これらのものに対するオルタナティヴの可能性を探ってみることにします。 「無条件の受け入れが、議論と対話における平和の条件である。」 議論している相手を、自分と同じ人間として受け…

迫害には根拠がない

「人間であることの権利の剥奪は、究極的には根拠がないままに行われる。」 いじめの現象を例にとって考えてみます。子どものうちでも、確かにいじめを受けやすい性質というものはあり、それは、身体上の性質から精神上の性質にわたり、さまざまなものがあり…

剥奪と暴力

裁きの宣告: そんなことをする(言う)なんて、あなたは人でなしだ。 「裁きの宣告は、人でなしとみなされた人間から権利と尊厳を剥奪する。」 通常状態の人間の世界においては、「互いに危害を加えてはならない」という原則(これを危害原則と呼ぶことにし…

宣告と炎上

前回に用いた「人でなし」という語については、もう少し掘り下げて考えてみる必要がありそうです。 裁きの宣告: そんなことをする(言う)なんて、あなたは人でなしだ。 人でなしとは非–人間を、あるいは人間以下の存在を指し示す言葉です。この表現のうち…

議論することの危険

ここで一点、注目しておいたほうがよいと思われる論点を指摘しておくことにします。 「倫理についての議論は、感情的な反応をきわめて引き起こしやすい。」 そもそも、議論というもの自体にこの懸念が常に付きまとうという点は否めませんが、こと倫理となる…

究極の本音

動物食の例からもう一つ、今回の探求に関係のある教訓を引き出しておくことにします。 「感性的なものと理性的なものの衝突が、倫理的な問題の核をなす。」 この点については多数の人が同意するのではないかと思いますが、動物の肉はおいしい。そして、この…

底なしの問い

動物食の例から、もう一つの帰結を引き出しておくことにします。 「倫理は私たちを、私たち自身をめぐる論争のうちに巻き込まずにはおかない。」 くり返しになってしまいますが、ここでは動物食の可否を論じたいわけではありません(詳しくは、別の機会に検…

動物食の例

倫理的に生きようとする人には時に(しばしば?)、次のような疑問を投げかけたくなる瞬間が訪れます。 「倫理なんて、すべて忘れて生きる方が楽ではないのか。」 一言でいえば、倫理はストレスの原因になる。思い悩んで悔い改めて、それでも何もできず、胃…

利益に反するライフスタイル

問題はつまるところ、誰もが知っている次のような論点に帰着するように思われます。 「倫理的に行動することは、自分の直接の利益にはつながらないことがありうる。」 パンを分け与えることは、自分の飢えを承認することである。無償で善を行うことができる…

消えない懸念

前回の記事で論じたことは、個人を超えた人間関係のレベルにおいても当てはまるのではないか。 「わたしとあなたの関係においても、わたしの幸福という観点を除き去ることはできないのではないか。」 わたしが無理をしながら、ただあなたの幸福だけを望むと…

倫理と幸福

前回までで見知らぬ他者をめぐる考察がひと段落したので、ここで別の角度から問いを提起することにします。 「たとえわたしが倫理的に生きることを望むとしても、幸福の原理そのものを放棄することはできないのではないか。」 この不可能性はおそらく生きて…

開かれそれ自体を思考すること

前回までで取り上げたかったトピックはとりあえず一通り扱いましたが、終わりに次の点を確認しておくことにします。 「想像を超えて現実のうちに足を踏み入れた時に、本当の意味での倫理がはじまる。」 見知らぬ他者の苦しみについて想像することは、おそら…

脱中心化の線

私たちの探求は、倫理上の問題が存在の問いと重なる地点に至りました。 「倫理は、脱-現前の運動を人間に要求する。」 その場にいること、現れていること、そして、そのようなものとして知られていること。「見知らぬ他者がどこかで苦しんでいるのではないか…

現前に抗すること

考察を進めるために、ここでは近世の哲学者であるウィリアム・バークリーの命題を手がかりとして取り上げてみることにします。 「存在するとは、知覚されることである。 Esse est percipi.」 ウィリアム・バークリー この命題はバークリーのみならず、カン…

いなくなってしまった人たち

サバイバーズギルト、すなわち、生きつづけていることへの罪悪感に関連して取り上げておきたいトピックがあります。 「私たちは、いなくなってしまった人たちのことを忘れながら生きている。」 学校や職場、その他さまざまな社会空間のうちで、そのメンバー…