イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「わたし」は最も根源的なものではない

論点: 「ある」は、わたしをはるかに超えている。 現代の人間にとっては、思考する主体としてのわたし以上に根源的なものはないように思われるかもしれない。「世界はわたしの表象である」は、情報技術の加速度的な発展によって自分が望む通りにコンテンツ…

「あるはある」

論点: 存在者が存在する。あるいは、その極点においてはもはや存在者がではなく、「存在が存在する」。 あるものがある。存在者から存在者への連関とその総体としての世界は、わたしを超えて存在し続けてゆく。 この「ある」の圧倒的な事実性は、わたしの思…

世界は存在する

論点: 世界はわたしが生まれていなかった時にも存在したし、わたしが死んだ後にも続いてゆくであろう。 たとえば、筆者が哲学者として考えていることも、二十一世紀を生きている哲学者であるということから規定を受けているに違いない。人間として生きると…

存在の真理へ

論点: わたしにとって、わたし自身は唯一的な認識の主体に他ならないけれども、それでも別の側面から言えば、世界の中のいち存在者にすぎない。 現代の人間にとっては、「世界はわたしの表象である」というテーゼは極めて馴染み深いものとなっており、それ…

「すみやかな流れに向かって言え、お前は……。」

論点: わたしはこの世界に生きる一人の人間として、いつかわたし自身の死を死ななければならない。 わたしは日々、当たり前のように何かを見、聞き、語っている。しかしいつの日か、もはやわたしがこの身体によって見、聞き、語ることがなくなる日がやって…

わたしの存在をめぐる考察

論点: わたしの存在は主観性よりも、まずもって、生によって定義されるものなのではないだろうか。 わたしなる存在に関する限り、生きることと存在することは完全に一致する。この生は、意識としてのわたしと、他の誰でもない「この人間」としてのわたしの…

生と存在の一致

論点: この世界の中で生きる一人の人間として、わたしは存在する。 わたしは思考する意識であるのと同時に、他の誰でもない一人の「この人間」でもある。このブログにおいても、かつてこのモメントを「二つ折れの与え」として考えたことがあるけれども(『…

存在論的差異の概念について

論点: 存在者は存在する。そして、あれこれの存在者からなる、この世界が存在する。 存在の問いを問うことから見えてくるのは、普段は当たり前すぎる事実として通り過ぎてしまっている上の事実が、実は何か根底からの驚きをもって問われるべきものであるの…

唯物論と存在理解

論点: 存在の問いへの答えは、それがいかなるものであるにしても、われわれに驚きをもたらすものでしかありえないであろう。 たとえば、この問いに対する自然主義的あるいは唯物論的な答えとは、「一切の存在者はいわば理由もなく存在しているのであって、…

人間が存在の問いを問うことの意味

論点: 存在の問いを問うのは、この世界の中でも人間のみである。 「なぜ一体、存在者があるのか、そして、むしろ無があるのではないのか?」このように問う私たちは、今この瞬間に存在している。無ではなく、存在しているもののただ中で、なぜ無ではなく、…

人間は、唯一の考える葦である

存在の問い: なぜ一体、存在者があるのか、そして、むしろ無があるのではないのか? まず最初に注目しておきたいのは、このような問いを問うのは、世界の中でも人間だけであるという一事実である。しかし、このことの意味を掘り下げる前に、二点ほど指摘し…

存在の問い

論点: 本質の問いよりも深い問いは、存在するのか? これまで本質の問い、すなわち「〜とは何か?」と問うことの意味について考えてきた。 この問いも、主題によっては相当に根源的なところまで行くものであって、たとえば「美とは何か」「正義とは何か」な…

本質の真理に関する探求の総括

本質の真理をめぐる探求の結論: 本質の真理を問うこととは、まなざしている事柄の「何であるか」をたえずより根源的にまなざしつつ、見てとられたものを、それにふさわしい言葉にもたらすことに他ならない。 命題の真理の次元にとどまっている限りは、たと…

より根源的に、ものをまなざすことに向かって

論点: 本質の真理を問うことは名づけることを越えて、さらに先へと進んでゆく。 たとえば、「美とは何か」という問いを探求したのちにわれわれが出した答えは、次のようなものであった。 美の本質についての定式化: 美とは、存在すべきものである限りでの…

言葉とまなざし、イデアと想起

本質の真理を問うことは、ある意味で、ものや出来事をふたたび名づけることであると言えるのではないか。 たとえば、美とは何か。私たちは様々なものや事柄を美しいと呼んでいるけれども、その「美しい」という言葉は何を意味しているのだろうか。この問いは…