イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

他者の発見

「無意味からの出口は、わたしの意識を超える他者である、あなたのうちにあるのではないか。」 わたしが死にたいというほど苦しんでいる時、救いの唯一の可能性は、その痛みをあなたに投げかけることにうちにあるのではないだろうか。 あなたは、わたしの意…

問いのうちにとどまること

「もしも存在することそれ自体が悪でしかありえないとしたら、それならば、わたしはなぜ生まれてきたのか。」 生きることのみじめさをめぐる問いかけは、どこかの時点で必ずこの地点にたどりつくことになるのではないか。 「人間にとって最もよいのは、生ま…

生きながらにして死んでいる

外傷とその否認をめぐる考察から言えそうなのは、つまるところ、人間にとって最も重要な問いとは、次のような疑問なのではないかということです。 「存在するべきか、否か? To be or not to be?」 わたしは、生まれてくるべきではなかったのではないか。こ…

スクリーンは否認のために……。

1.唯一的な主体としてのわたしへの、わたし自身の存在の贈与あるいは外傷。(現実的なモメント) 2.コギト、すなわち思考する主体としてのわたしの思考。(想像的なモメント) もう少し詳しく、この二つのモメントの関係について考えてみることにします。 …

フィクションの危険性

1.唯一的な主体としてのわたしへの、わたし自身の存在の贈与あるいは外傷。(現実的なモメント) 2.コギト、すなわち思考する主体としてのわたしの思考。(想像的なモメント) 2は、1にもとづくことにおいてのみ可能になります。そして、2は1のモメントに…

外傷と事後性

「存在するという運命は、それを望むにせよ望まないにせよ、唯一的な主体であるわたしに課せられている。」 わたしが、この世にこの人間として生まれてきたこと。そして、わたしが今ここにこの人間として、存在していること。 このことは、わたしの自由には…

わたしがこの世に生まれ落ちたとき

「人間の自由は、おのれ自身にたいして贈られる運命を受け取ることのうちにこそあるといえるのではないか。」 人生を自己実現という観点のみから見ると、わたしの生は、わたしがわたし自身の望むことを現実化してゆくことに尽きるようにもみえます。けれども…

世界の贈与

「世界は唯一的な主体であるわたしに対して、ただ一つ贈与される。」 わたしと同じように、わたしが生きることになるわたしの世界もまた、唯一的であるという特徴を持っています。 わたしは、誕生のときに与えられたわたしの特異性に応じて、わたし自身の世…

窓を眺める子供は

もう一度、ニヒリズムのほうに話を戻すことにします。 「ニヒリズムの根底には、わたしにとって他者が存在しなくなっているという事情があるのではないか。」 この世界には意味がないと、わたしは感じている。しかしそれは、実はわたしがわたし自身の観点か…

Appendix:別の深刻な問題

「ニヒリズムの問題は深刻ではあるが、最も深刻であるとは限らない。」 前回すでに論じたように、おそらくニヒリズムの問題は、社会-経済的な条件が整った、物のあふれる「豊かな世界」において本格的に発生します。その意味では、この問題は「特権的に恵ま…

物があふれているからこそ……。

「ニヒリズムが蔓延しているということは、人間が他者と取り結ぶ関係が変化しつつあることの兆候でもあるのではないか。」 今日の人間は確かに、他者たちとともに生きてゆくことに倦み疲れています。けれども、このことは逆に、他者への渇望がかつてよりも深…

ニヒリズムは派生的である

「望むにせよ望まないにせよ、わたしには、あなたとの関係を求めるのをやめることができない。」 関係の具体的な状況はさまざまであるとはいえ、これが人間の生を根底から条件づける渇望であるように思われます。 わたしは確かに、あなたと呼べるような他者…

渇望、それでもなお

「本当の意味での他者たちとの関係は、関係の不可能性に直面するところからはじまるのではないか。」 お互いに、自分が見たい面だけを相手のうちに認めつづけていること。そして、他者がわたしとは違う仕方で考えているということに、私が耐えることができな…

他者のいない世界

人と人との関係については、生きるうえで次のことを改めて受け入れておいた方がよいのではないか。 「人に関わらないことも、人と関わりつづけることも、人間に苦しみをもたらさずにはおかない。」 人間と深く関わるということは、おそらくは誰にとっても、…

関係をめぐる残酷な事実

生きることの意味は本質的にいって他者との関係のうちにこそあるのではないかと思われますが、その一方で、次のような事情を忘れることはできません。 「わたしとあなたとの関係は、どこかで終わってしまうことがありうる。」 かつてはあれほど多くのことを…