イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「『呼び声』を聞いてしまったら、元に戻ることはできない」:生の本質について考える

呼び声の性格を見定める作業から導かれてくる帰結を引き出すという試みも、そろそろ大詰めを迎えつつある。前回に見た「『それ』が呼ぶ」に続く箇所を引用しつつ、考えてみることにしよう。 「『それ』が呼ぶ。期待に反して、否むしろ意志に反してすら呼ぶ。…

「事象そのものへ!」:『存在と時間』のテーゼ「『それ』が呼ぶ」の分析を通して、哲学することへの衝動の本質を見定める

良心の呼び声の性格をより根源的な仕方で捉えるために、私たちは、ハイデッガーの「『それ』が呼ぶ」という定式に着目してみることにしたい。 「呼び声はそれどころか、私たち自身によって計画されるものではまったくない。準備されるものでも、随意に遂行さ…

「わたし自身が、わたしにとって謎となる経験」:実存論的分析のテーゼ「呼び声は通り過ぎる」を検討する

良心の呼び声についての考察を深めるために、「呼び声は通り過ぎる」とハイデッガーが語っている事態について、掘り下げて考えてみることにしたい。 「現存在は、他者たちとじぶん自身にとって現存在として世間的には理解されている。そのような現存在が、こ…

「人間存在は果たして、何に耳を傾けるべきか?」:『存在と時間』が提起する根本問題について

今回は少し立ち止まって、次の問題についてじっくりと考えてみることにしたい。 問題提起: 「聞く」ことをめぐる『存在と時間』の議論は2022年の現在を生きている私たちに対して、私たち自身の生のあり方に関わる非常に重要な問いを投げかけていると言える…