イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

何よりも美しいもの

 
 ソクラテスが生涯をかけて探し求めたのは、魂の美であったといえるように思います。
 
 
 古代のギリシア人たちは、熱情をこめて美しいものを求めつづけていました。そうした時代の流れに応答するようなかたちで、ソクラテスは言いました。「アテナイの諸君。最も美しいものとは、人間の魂にほかならないのではないか。」
 
 
 プラトンが書いた『ソクラテスの弁明』は、奇蹟のような書物です。この本の中に書かれているような人が現実にいたということだけで、僕は人間という存在のことをほめたたえたいという思いに駆られます。
 
 
 ソクラテスはこの本で描かれている出来事において、かれが生きた時代そのものと命をかけて闘いながら、かれの時代を完成させました。哲学者たちの中で、これほどドラマティックな出来事を経験した人は、他になかなかいません。
 
 
 
ソクラテスの弁明 ギリシア プラトン
 
 
 
 「哲学は理屈の正しさだけではなく、何よりも、魂のよさを求める営みである。」のちの哲学者たちが哲学を議論のゲームに押しこめることにどれほど懸命になったとしても、ソクラテスのメッセージが消し去られることはありません。
 
 
 ソクラテス以前の人びとのことを哲学の先駆者として位置づけようとする試みは少なくありませんが、僕はやはり、ソクラテスこそは哲学の創始者なのではないかと思います。少なくとも、哲学という営みにとってのソクラテスという人の重要性を否定することは、決してできないのではないでしょうか。
 
 
 プラトンの作品を読んでいると、ソクラテスはどうやら、神という次元についても深い予感を持っていたようにも思えます。この点については、死後にかれと心を開いて話しあえる機会を待つことにしたいと思います。
 
 
 
 
 
 
 
 
[今日から、ポーランドリトアニアへの旅行の写真を載せることにします。今朝、成田空港に到着しました!アウシュヴィッツから学んだことを含めて、いずれどこかで論じてみたいと思います。]