「書くということはかくも根底的に、それを読むものとの関係において……。」
Tには昔、僕が書いたものをずいぶん読んでもらったのである。僕も、Tの書いたものを読んだ。僕とTはお互いに、本当に真剣に相手のものを読んだのだった。
僕が今でも書き続けているのは、Tを始め、色んな人に書いたものを読んでもらい続けてきたからだ。
全然つまらない、みたいな反応をもらったことももちろんある。自分でいいと思ってたのにそれほどでもないっていう感想をもらって気落ちしたことも、結構あった。でも、いつでも読んでもらう相手は、自分と近い関係にある親しい誰かだった。
いま僕は、特定の誰に向けてということもなく、この文章を書いている。でも、たぶん今書くことができているのも、この三年間のあいだ読んでくれる人が居続けてくれたからだろう。人間が何かを書くことができるのは、それを読んでくれる人が存在しているからなのだ。
なんか、不思議な感じがする。ありがたすぎるとしか言いようがないけど、僕の書いたものに目を通してくれる人たちも、それぞれ自分の人生があって、そこではその人たち自身が主人公なのである。
その人たちに、なんと言えばいいだろうか。なんで読んでくれるのかわかりませんが、本当にありがとうございます、とかだろうか。いや、これは難しい。どういう言葉遣いをすればいいのかもわからない。
でも、その人たちが主人公のそっちの世界のほうで、なんか楽しい、とか、よくわかんないけど元気出てきた、とか、うわお、なんかテンション上がってきた、こんなもん読んでる場合じゃない、わたしも自分の人生を思いっきり生きてやるとか、そういうことを思ってもらえることがあるとすれば、最高に嬉しいのである。書くということはかくも根底的に、それを読むものとの関係において……。