イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

おお女よ、汝の名は塩分

 
 昨日は、コンビニでラーメンを買って食べてしまったのである!
 

 「……それがどうかしたんですか?」
 

 カップラーメンじゃなくて、レンジでチンする式のラーメンだったのである。セブンイレブンの売り場の麺類コーナーの中に、なんと事もあろうに、家系のラーメンが並べられていたのである……。
 

 「……家系?」
 

 家系とは、塩分過多のラーメンの中でも、チョー弩級に塩分濃度の高い、究極のラーメンである。チョー体に悪いけど、チョーおいしいのである!
 

 六年前くらいに逆流性食道炎にかかってから食習慣全体を悔い改めてというもの、僕は家系ラーメンとは泣く泣く別れたつもりであった。しかし、おお友よ、僕は昨晩のセブンイレブンで、その家系ラーメンに再会してしまったのだ。
 

 僕には、いつものタコライスを食べるという選択肢もあった。これは一日の二分の一の野菜が取れると銘打ってある代物で、これと豆乳青汁とあともう一品というのが、僕のよくあるプリチー夕飯のパターンなのである。
 

 しかし、家系ラーメンは突然の再開に戸惑う僕に、甘い声で話しかけてきたのである。
 

 「philoくん、久しぶり。わたし、こんなところでphiloくんに会えるなんて思わなかったよ。philoくん。久しぶりに今日は、キミの食卓に並んでもいいかな……?」
 
 
 
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 これがサタンの誘惑であるということは、僕にはわかっていた。何しろ、最近の僕は昔とは違い、塩分ノイローゼなのである。ノイローゼすぎて、ここ数ヶ月は納豆にすらタレを入れないくらいである。家系ラーメンなんて食べた日には、精神の崩壊は必至である……。
 

 おお!しかしサタン、いや家系ラーメンは、売り場の一番下の段から僕に語り続けてくるではないか。
 

 「ねえ、philoくん。わたしみたいに塩分の多い子は、やっぱりダメなのかな。わたしとはやっぱり、もう話もしてくれないの……?」
 

 そうつぶやく彼女(ポリエステル容器)の眼には、うっすら涙すら浮かんでいるようであった。そんなことないよ僕もまだ今でも好きだあぁと心の中で絶叫した後のことは、よく覚えていない。気がつくと僕は、チンしてもらった後の器を抱えて、セブンイレブンを後にしていたのであった……。
 

 そういうわけで、昨夜は久しぶりにウルトラ塩分ナイトの一夜を過ごしてしまったのである。家系ラーメンは実にうまかったが、哲学者として、人間の(というか僕の)心の弱さをあらためて思い知らされた次第であった……。