イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

ただ上野に行くだけだ

 
 「philoさん、今度プラトンの読書会やりません?やっぱり、プラトンとかアリストテレスとか、その辺りをしっかり押さえておかなきゃダメかなーって思って……☆」
 

 俺もいずれプラトンは改めてしっかり研究せねばと思っていたから、読書会をするのにはやぶさかではない。欲を言えば後期の『ソピステース』あたりに手を出したいところだが、あえて鉄板の『メノン』や『国家』を深掘りするのも一興であろうか。だがカスミちゃん(仮名)、その読書会というのは、まさか俺たち二人だけで開催するつもりなのか……?
 

 「わたし、ルーブル美術館展見に行きたいんですよね。あっ、でもこれって、もうすぐ終わっちゃうんだ……。」
 

 ……そう言いながらスマホタブレットをそこはかとなく上品な仕草でいじる君のことを、ヤバいマジでバングラデシュかわいい、ビバ・カスミちゃんとかつい考えてしまう俺ではあるが、俺とて、そうやってさりげなくこちらを誘ってくる君の誘惑に屈するような情けない男ではない。第一、展示終了の十日前ともなれば、都内の美術館の企画展なんてメチャ混み確実ではないか。
 

 「あ、でもわたし、そう言えば上野の西洋美術館の常設展って、まだ一度も見たことないんですよね。」
 

 そ、そうやってはにかんで俺に微笑んでみせたって、俺が騙されるとでも思っているのか。だがしかし、たまには絵画鑑賞するのも哲学者の嗜みの一つではあろうから、この際、あえて上野行っちゃう……?
 
 
 
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 ……こうして、まんまと恥ずかしがり屋のカスミちゃんと西洋美術館に行く羽目に陥ってしまった俺ではあるが、哲学者にとって、大切なのはあくまでも真理であるという大原則まで忘れたわけではない。俺が上野に行くのは、人生という大学で学び続けるというモットーからの帰結に過ぎんのだ。
 

 このphilo1985は、女子にうつつを抜かすような男ではない。
 

 君がいくらかわいくて、哲学まで好きな超絶レア女子であろうとも、その上たまに恥じらってみせるような奥手でありながら時にアグレッシブに攻めてきて、なおかつ今まで奇跡的に彼氏がいなかったとしてもである、俺は決して真理を裏切って、君に転んだりはしない。俺には、クールなブログを書いてこの国の哲学界にどでかい風穴をあけるという使命があるのだ。
 

 いやでも、やっぱ上野行くなら美術館回ったあと、「みはし」で白玉クリームあんみつくらいは食べてもいいかな。二人で上野って、これはもはやデートって呼んでもいいのかな。カスミちゃん、どんな洋服着てくるのかな。好きな詩人はシェリーかあ、うふふ、ホーントかわいいな……。
 
 
 
 
 
 
 
 
[カスミちゃんは日々蓄積されてゆく筆者の鬱憤が生み出した、空想上の人物です。]