イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

ただもう光、光、光

 
 先週、久しぶりに『ショーシャンクの空に』のことが話題に上ったのである。見たことある?
 

 「……いや、ないですね。」
 

 これは超定番だけど、めっちゃいい映画なのである。確か、世界中の人々に聞いた、ある一番好きな映画ランキングでも一位を取ったとか取らないとか。僕も子どもの頃にこの映画を見て以来まちがいなく十回以上は見たけど、人生最後に何か映画を見てくださいって言われたら、たぶんこれを見るのであろうなぁ(原作を書いたスティーブン・キングは、やはりものすんごい作家だと言わざるをえないのである)。
 

 でね、今回めっちゃ久しぶりにこの映画の話をしていて、主人公のアンディ・デュフレーンの人生について改めて考えさせられたのである(以下、ネタバレ注意)。この映画って要するに、無罪で投獄されたアンディが何十年もかけて脱獄するって話なんだけどさ、この設定ってやっぱりすごいんじゃないかと。
 

 アンディ・デュフレーンは毎日少しずつ自分の牢屋の壁を削っていって、それで穴を掘って脱獄する。もちろん、檻の中だからそんなに派手なことをするわけにもゆかず、夜中に少しずつ掘り進めてゆくわけである。
 

 最後には自由になるっていう希望を抱きながら、地味に地味にこっそり頑張りつづけるわけである。ここに今回、あらためて感じ入るものがあった。
 

 アンディはメキシコの真っ青な海を夢見ながら穴を掘り、何キロもある排水溝を這いつくばって自由を手に入れるのだ。これこそ、ひとつの理想的人生の型の見本というものではなかろうか……!
 
 
 
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 僕も毎日このブログを書いてるのは、いわば穴を掘ってるようなものである。一体、いつまで掘ったら外に出られるのであろうか。ひょっとしたら、僕はただ一生穴を掘りつづけることになるんではないのか。
 

 いやしかしだよ、いつか僕の握ってるハンマーが、最後の石の塊に突き当たるとしよう。穴の奥底から光が射し込む。何てこった、自分でも何かが起こるなんていつの間にかあんまり考えなくなってはいたけど、ついに穴から出られる日が来たってことなのか。
 

 マジかよこりゃすごいぞ、何だあれは、さてはサントリー学芸賞なのか、いやそんなもんじゃない、そんなもんで済むような話じゃないぞこれは、ただもう光、光、光だ、太平洋だろうと白い雲だろうと思いのまま、自由、あまりにも完璧すぎてたった一点の曇りすらもない、まごうことなき本物の自由。
 

 いや参ったねこれは、僕の人生はこのためにあったのか、いやもうすごすぎて何も言えんよこれは、よかったねよかったね、人生ってすばらしい、最後の最後まで行き着いてみれば、もう息をするのも忘れるくらいに美しい。アンディ・デュフレーンの物語の結末を見てると、ひょっとしたらそんな人生ってほんとにあるんじゃなかろうかと本気で思いたくなってくるから不思議である。人生、いずれにしろ穴は掘らねばならないとはいえ、どうせなら気が狂うくらいの夢を見ながら掘りたいものである。