イデアの昼と夜

東京大学で哲学を学んだのち、ブログを書いています。

哲学

「不合理ユエニ我信ズ」

さて、信仰の言葉は、次のように語っています。 「受肉したロゴスであるキリストは、人間の罪のために十字架上で死に、墓に葬られ、三日目に復活した。」 もはや、ここまで来ると何でもありなのではないかという感は否めませんが、あらゆる思考を覆す絶対的…

あたかも砂のように

1.思考する意識としてのわたしの「わたしはある」(コギト命題) 2.絶対者としての神の「わたしはある」(「主の御名」) 1のコギト命題はデカルトが主張するように、絶対確実に真です。けれども、この命題は「わたしがそのつど思考するかぎりにおいて」と…

「わたしはある」

絶対的転覆について考えるために、信仰の言葉を参照してみることにしましょう。『出エジプト記』第三章において、シナイ山でモーセから名を尋ねられた神は、次のように語ったとされています。 「わたしはある。わたしはあるという者だ。」 「わたしはある。…

デカルトと絶対的転覆

ロゴスの受肉のほうに話を戻しましょう。 「もしも神が存在するならば、神には人間の思考と想像を超えることを行うことができると想定するのを妨げるものは、何も存在しない。」 ロゴスの受肉という主題についても、このことが当てはまります。「ロゴスの受…

死は想像不可能である

想像不可能な出来事が哲学にとって無縁なものではないことを示す例として、私たちすべてにとって決して無関係ではありえないものがあります。 「死は想像不可能である。」 わたしが思考する意識であるかぎり、そのわたしは、わたし自身が消滅するという事態…

受肉の問題は哲学に属する

ロゴスの受肉というイデーに対しては、当然、次のような疑問が浮かんでくることが予想されます。 「ロゴスの受肉というのは、話としてはあまりにも荒唐無稽すぎる。この話を哲学で扱うのは、さすがに無理というものではないか。」 このような疑問はいうまで…

ロゴスの受肉

さて、ここから先は、哲学的思考のリミットとでも呼ぶべき領域に足を踏み入れてゆくことにします。 「信仰の言葉は、ロゴスは受肉して一人の人間となったと語っている。」 第二の位格である子としてのロゴスは、世界の創造に関わっていました。世界はロゴス…

法-外な贈与

本題に戻って、もう一度、神の愛の哲学的表現のほうに立ち返ってみることにしましょう。 「神の愛とは、現存在への、超越の内部超出のことである。」 4月には、真理の審級の、わたしとあなたへの現前という問題を扱いましたが、心あるいは意識については、…

Appendix:コギトの無力

思考の(偽)メシア性と独断性という問題に行き当たった時には、次のような疑問が浮かんでくることは避けられないように思われます。 「哲学的思考は、その本質からいって、独断的であるほかないのだろうか。」 遺憾ながらそうであるほかないというのが、筆…

メシア性と独断性

思考の(偽)メシア性の問題については、糾弾と否認というモメントに注目しないわけにはゆきません。 「思考はメシア的であろうとするかぎりにおいて、必ずその独断性を非難されないわけにはゆかない。」 仮に、ある人が「わたしはメシア、すなわち救世主で…

思考の(偽)メシア性という問題

1.本来的思考において語られることは、父の意に適っている。 この規定を眺めていると、次のような疑問が浮かんでくるのは避けられないように思われます。 「はたして、神の意に適う思考などというものがありうるのだろうか。」 自分が考え、話していること…

ドイツ観念論との交錯

三位一体論の視点に立ってみると、「わたしが考える」というごく当たり前のものに見える出来事も、まったく違ったふうに見えてきます。 「わたしは、絶対者において考える。」 まずは、以前にも少し論じたように、語る、あるいは考えるという行為は、真理と…

絶対的内面性と超越のトリアーデ

第三の位格である聖霊については、次の論点を指摘しておくことにします。 「第三の位格はわたしにおいて、絶対的内面性とでも呼ぶべきモダリティを構成する。」 信仰の言葉によれば、第一の位格である父や第二の位格である子と同じように、第三の位格である…

第三の位格

三位一体論に話が及んだので、この機会に第三の位格についても触れておくことにします。 「信仰の言葉によれば、人間は、第三の位格である聖霊が働くことによって神を信じるようになる。」 何かを信じるようになるということは、よく考えてみると、とても不…

「はじめに、ロゴスがあった」

ロゴスという概念について語ることが難しいのは、ロゴスもまたイデアと同じように、信仰対象という性格を持っているからです。 世界を創造する言葉という意味でのロゴスという概念をはじめに打ち出したのは、フィロンという古代のユダヤ人哲学者でした。その…

ロゴスとイデア

来たるべき知恵の探求を、ここで仮に哲神学と呼んでおくことにすると、哲神学的な観点からは、次のような点を指摘することができそうです。 「ロゴスとイデアは、それぞれ〈語られたもの〉と〈見られたもの〉として、互いが互いに向けて対向する。」 信仰の…

イデア論をめぐる七つの論点

今回は少し(かなり?)マニアックになりますが、イデア論をめぐる七つの観点を提示しておくことにします。 1.認識論的観点。フッサールの研究は、意識における意味作用のイデア的同一性を発見するところから、本格的に始まりました。のちに「本質直観」と…

この世はイデアのまわりを回る

本題からは少し外れますが、よい機会なのでここで脱線して、以下の点について考えておくことにしたい。 「イデアは存在する。」 キャンディーズのメンバーたちは、「恋する普通の女の子」に扮して歌を歌います。しかし、誰もが知っている通り、「恋する普通…

キャンディーズ『暑中見舞い申し上げます』

やはり、一曲だけでもキャンディーズの名曲を紹介させていただきたいという思いを抑えることができません!季節はもう夏ということで、FINALサマーチューン『暑中見舞い申し上げます』を分析してみることにします。うーわお! キャンディーズ/暑中お見舞い…

存在論的差異とは

というわけで、哲学の未来のためにも、ぜひともキャンディーズの魅力の秘密に迫っておきたいところですが、ここで私たちは、マルティン・ハイデッガーが存在論的差異と呼んだモメントに注目しておく必要があるように思われます。 「存在論的差異とは、存在者…

キャンディーズをたたえて

哲学がこの21世紀を力強く生き残ってゆくためには、どうすればいいのか。その問いへの答えを求めつづけていた筆者は、ひとつのヒントとなるかもしれないアイドルの存在に、あらためて注意を向けさせられました。 「キャンディーズは、ヤバすぎる。」 昭和と…

哲学の戦場

「バック・トゥ・ザ・生者の世界。」なんとか死者の中からの復活を果たし、2017年のバビロン東京に戻ってくることができましたが、さて、これからどうするべきか……。 「哲学に、何ができるのか。」 筆者は哲学の道をすでに選びとってしまいましたが、これは…

久しぶりに踊ろう

愛について書くはずが、気がつくと自己破壊について書いていました。この際、さらにもう一車線分脱線しておくことにします。 「人間には死もあれば、死者の中からの復活もある。」 この一ヶ月ほどの停止期間のおかげで、ひとたびは完全に死にかけた筆者も、…

自己破壊のエクリチュール

ところで、ひとが自己について書く時には、次の二つのケースがありうるように思われます。 1.自分の現状を肯定しながら書く。(自己保存のエクリチュール) 2.自分の現状を断固として否定しながら書く。(自己破壊のエクリチュール) 1は、わりに穏当なタ…

現状について自問する

人生に悩むことは必要であるということで、今回の記事では、自分の実存のうめきを最後まで吐きだしておくことにします。 「筆者にはもう、このブログで書きつづけることしか残されていない。」 もう何度このことについて書いたかわかりませんが、おそらく、…

軸のブレをめぐる三つの言葉

しかし、考えなおしてみると、人生の軸がブレまくるというのは、哲学者の宿命というものかもしれません。 「大きく思惟する者は、大きく迷わねばならない。」 マルティン・ハイデッガー 迷いまくることこそ、思索の道を歩んでいることのしるしであると、ここ…

哲学か伝道か

超サイヤ人哲学者3はともかくとして、前回の記事を書いたのちに、次のような疑問が浮かんできてしまいました。 「筆者は哲学者として生きるだけではなく、伝道者として生きるべきではないのか。」 正直に言って、今の筆者は、神の愛を伝えようと努力しつづけ…

人生の総合競技

話がつい本題から逸れてしまいましたが、これを機会に、もう少しだけ脱線しておくことにします。 「哲学とは、人生の総合競技である。」 前にも少し書きましたが、筆者は最近、哲学の道の奥深さを前にもまして思い知らされています。この道は、はてしなく長…

『ガラスの仮面』

思い返してみると、『ロトの紋章』は、女剣士ルナフレアや老師タルキンが勇者アルスを守るために死んでいったり、賢王ポロンの両親が自分の村を守るために自爆呪文メガンテで命を捨てたりするなど、自己犠牲のスピリットをこれでもかというほどに示してくれ…

『ロトの紋章』

物事の自然な姿は究極にあるとアリストテレスも言っているので、いきなりではありますが、愛の究極のかたちについて考えるところから考察をはじめてみます。 「与える愛とは、究極のところでは、見返りを求めない愛である。」 通常の人間関係においては、ギ…